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日本銀行記者会見2021年12月1日安達誠司, 審議委員

安達審議委員記者会見(2021年12月1日)要旨

全文

§1Question

まず、本日の懇談会でどのような内容をお話しされたのか、教えてください。

§2Seiji Adachi

本日の懇談会では、まず大分県の行政、経済界、そして金融界を代表する方々から、地域経済の現状や課題のほか、日本銀行の金融政策運営に関して色々なご意見を賜りました。極めて有益な意見交換ができたと認識しています。まずはこの場を借りて、ご出席頂いた方々に御礼を申し上げたいと思います。本日の懇談会では、様々な意見が出たため、ここで全てを網羅してご紹介することはできませんが、席上で聞かれた話題等を私なりに整理して申し上げたいと思います。まず、大分県の足許の景気については、製造業大手の出先企業が大分県にはたくさんあって、半導体関連に加えて鉄鋼・化学および素材業種は高水準の生産を続けており、地域経済を牽引しているという話を伺いました。他方、これは新型コロナウイルス感染症の影響の特徴ですが、観光や飲食、交通・運輸業等では、感染症の落ち着きとともに幾分持ち直しているものの、やはりインバウンド客が殆どいない──「蒸発した」という表現をされていましたが──こともあり、感染症拡大前に比べると客数の水準は低く、依然として厳しい状態が続いているという見方が示され、不均一性はかなり大きい印象を受けました。また、特に中小企業で、原材料価格、燃料の高騰や供給制約による仕入れ難から収益が押し下げられている先も一部にみられるという意見も聞かれました。

§3Seiji Adachi

この間、令和 3年度の大分県の最低賃金が 792 円から 822 円に 30 円引き上げられた点については、行政の方からは必要な施策であるという声が聞かれた一方、やはり企業経営者の方々からは、短期的には収益の押し下げ要因につながって非常に厳しい、ただ、中長期的な労働力確保といった観点では、従来大分県が最低賃金の水準が低かったこともあり、それを引き上げたという点で重要な施策であるという意見を伺いました。こうしたもとで、都市部への人口流出が続く大分県においては、今後、DXの推進等を通じてサービス産業の生産性を上げる必要がある、つまり「人への投資が重要である」という意見も伺い、非常に印象に残りました。コロナ禍においてリモートワークが普及したことで、地方に移住するという方向にフォーカスが当たっている点に関しても、大分県として期待するという声も聞かれました。また、金融面については、感染症の影響が長期化するもとで、行政サイドでは各種給付金の支給や家賃など固定費の補助を行っているほか、金融機関においては実質無利子・無担保融資の実行、そして条件変更にも積極的に応じており、そうした行政、金融機関双方の支援もあって、中小企業の資金繰りは緩和的な状況にあり、企業倒産も低水準に抑えられているという見方を伺いました。

§4Seiji Adachi

さらに、話は少し違いますが、次世代産業の育成とか金融のイノベーションにつながる動き、これを今後は積極的にサポートしたいという声も聞かれ、大変力強く思いました。私ども中央銀行の立場から考えますと、やはり物価安定のもとで経済の持続的成長を実現していくこと、および金融システムの安定性を確保することを通じて、当地関係者のご努力がより大きな成果へつながっていくようにサポートしてまいりたいと思っています。

§5Question

今の中でもコロナの影響などについてお話がございましたが、そうしたことを踏まえて、昨日オミクロン株の感染者も国内で確認されましたけれども、今後のオミクロン株など変異株がまたまん延するかもしれないという状況の中で、それが地域経済に与える影響について、安達審議委員はどのように考えていらっしゃいますでしょうか。

§6Seiji Adachi

先ほど申し上げたように、足許、いわゆる対面型サービス業においては、最悪期は脱したものの依然厳しさが残っています。一方、製造業等に関してはかなり戻してきている状況で、全体としては持ち直しの動きがみられて、このまま新型コロナウイルス感染症が落ち着けば、次のステップであるポストコロナへという期待が高まっていたところでした。もっとも、ここ数日、オミクロン株という新しい変異株が出現し、国内でも一部発見されたということです。ただ、オミクロン株自体も、症状やどの程度重症化するのか、どういう年齢層、欧州では若年層の感染が多いようですが、どのような人体的な影響を与えるかはまだ不透明な状況です。従って、例えば人流をどれくらい抑えるべきなのか、そうした懸念で人流が抑制されてしまうのかというところは、今後みていく必要がありますし、かなり大きな不確実性として、経済にマイナスの影響が出ないかどうか注視していく必要があると思っています。

§7Question

先ほどもお話があったのですが、新たな産業モデルという面で、大分県の宇宙産業の現状と展望について、どのようにお考えになられているのかお聞かせください。

§8Seiji Adachi

ロケット産業に目をつけたというのは、目のつけどころが非常に素晴らしい、と思いました。まず、宇宙産業は非常に大きな成長余地を残しておりフロンティアであることから、そこに注力するのは非常に重要なことだと思っています。もうひとつは、例えば大分空港が宇宙港になるという話はあるわけですが、地域間というより国際的な地域に拡がる競争に大分が入っていったのは非常にチャレンジングなことだと思いますし、素晴らしいことだと思います。経済に与える影響としては、もちろん成長フロンティアが非常に拡がっているということで、その最先端の企業、宇宙産業が上手く成功すれば大分県経済を浮上させる非常に大きな力になり得るということもありますが、もう一つ大きいのは、宇宙産業は非常に夢がある産業だということです。ドラマや漫画にもありますが、やはり子供たちが宇宙産業、実際はその企業が身近にいることで刺激を受けて、その人材を、特に理系教育は非常に重要だと言われていますから、大学、行政と企業が協力して育成することができれば、中長期的な成長余力にもなります。これは県だけではなく日本国全体にとっても成功例という形になる可能性を秘めていますので、非常に大きいことだと期待しています。

§9Question

2022年3月末で期限が切れるコロナオペについてお伺いします。安達審議委員の午前中の挨拶で、感染が再拡大し、公衆衛生上の措置を再びとる状況になった場合には、企業の資金繰りを支える必要が生じるという趣旨の話をされていました。足許の状況をみると、オミクロン株が日本でも見つかり、政府も外国人の入国を当面停止するという措置を打ち出しています。こうした状況を踏まえると、日銀のコロナオペ、全てを打ち切るという選択肢を取り得るのかという点についてお伺いします。それとあわせて、とはいっても大企業の資金繰りは落ち着きを取り戻していますし、安達審議委員も企業の倒産件数はきわめて低い水準にあるというような話をしています。そういうことを踏まえると、コロナオペも例えば社債・CPの買入れの縮小など一部見直してもいいのではないかという意見もあるようですが、この意見について安達審議委員はどのようなご見解でしょうか。

§10Seiji Adachi

まず、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(特別プログラム)」、これは社債、 CPの買入れも含めてですが、これについては、まだオープンクエスチョンといいますか、実際にどういう方向性でやっていくべきかという話はまだしていない段階ですので、私からは何とも言えない状況であるということをご了承頂きたいと思います。そのうえで、事実として、ご指摘のように、大企業の資金繰りはかなり緩和されており、最近では昨年調達した資金を返す動きもあります。ただ、足許オミクロン株という新しい変異株が出現し、状況がまだ全く読めない状況となったことから、大企業の資金繰りは緩和しているという話は確かに流れとしてはあるわけですが、やはりもう少しオミクロン株の状況をみたいというのも正直なところです。もう一つの論点として、本日の金融経済懇談会でも伺ったのですが、私どもの立場からみていますと、例えば今回のコロナ禍の影響の不均一性という見方があるわけです。その不均一性というのは、例えば業種別、セクトリアルであるとよく言われているのですが、どうもよく話を聞いてみると、同じセクターでも資金繰りに特に困っていない企業もあれば困っている企業もあるということで、同じセクターの中でもかなり不均一性は高いという印象を受けました。

§11Seiji Adachi

従って、全体として資金繰りが緩和している、という話と同時に、同一セクターの中の資金繰り逼迫度の分布もよくみていきたいと思っています。そういう意味ではまだ検討する課題が多いと思いますので、今のところはやはりオープンクエスチョンで、立場としてはやはりニュートラルだと考えています。

§12Question

午前中の講演の中で、物価が先行き上がっていくというお話をされて、賃上げが必要だということを言われていたかと思うのですが、現実的に日本ではなかなか賃金が上がらない中で、食料品や原油等々上がって、家計の実質所得を下げているということもよく言われるのですが、その消費へのマイナスのところの影響を現状でどのようにみていらっしゃるのかについてお伺いします。

§13Seiji Adachi

ご指摘のように賃上げはなかなか厳しくて、本日の金融経済懇談会でも多くの方から最低賃金について指摘がありました。一般的な賃上げと基本的には同じだと思うのですが、やはり企業の収益がある程度上がってきて賃上げをしても企業業績は揺るがない状況にならないと、原理的には賃上げしにくいという状況であるのは確かだと思います。ただ、周りをみてみますと、例えばファーストフード産業で、販売価格の上昇がみられ始めており、アルバイトの賃金も上がってきています。その上昇幅はあまり大きくないですし、全産業の中では限定的な動きではありますが、非常に安い賃金で人を雇って安い値段で売るという薄利多売型のビジネスモデルは、従来のデフレの局面と比較するとかなり後退してきていると思います。それは、前回の日銀短観で販売価格を引き上げたいという企業の数がかなり増えてきていて、逆に下げたいという企業が少なくなってきている状況からもみえていると思いますので、短期間において急に賃上げが実現してデフレ完全克服とはなかなかならないとは思いますが、中長期的にはじわじわとそういう流れが強まっていくのではないかということで本日お話させて頂いた次第です。

§14Question

安達委員は挨拶の中で当面感染症の影響を注視して、必要があれば企業による事業の継続を支援する観点から、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる姿勢であるとご発言されまして、先ほどの質問にありましたけども、オミクロン株の動向も今不透明な中ですけれども、もし感染拡大して公衆衛生上の措置が再び導入されるような事態になった場合に、安達委員としてはコロナ特別プログラム延長を支持されるのか、それとも追加緩和策を打ち出す必要があるとお考えなのでしょうか、というのが一つです。また、反対にオミクロン株の感染がそれほど拡がらず、いわゆる公衆衛生上の措置まで踏み切らなかった場合には、来年3月でコロナ対応特別プログラム終了になるのですが、公衆衛生上の措置までいかなければ 2022年3月で終了しても良い、とお考えでしょうか。

§15Seiji Adachi

最初の点ですけれども、やや表現が不適切だったかなと思っているのですが、追加緩和云々というのは基本的にはテールリスクに対する対処だと理解して頂いた方が良いと思います。従って、例えばオミクロン株が世界的に感染を急拡大させて、また昨年の初め頃みたいに世界各地で完全に経済活動が止まってしまう状況が起きた場合、そしてその際に、ここ数日規模は小さいですが発生している感じもありますが、いわゆるリスクオフの流れで円高・株安、海外株の急激な下落というのが生じた場合、そしてそれがある程度長く続くというようなある意味のテールリスクが生じた場合には、追加緩和を考えるべきではないかと思います。このため、一般論としてコロナオペを拡充させるという意味では必ずしもないということです。二点目につきましては、先程の質問でありましたように、「特別プログラム」に関しては、現時点ではオープンクエスチョンという言い方をさせて頂いています。オミクロン株の感染の趨勢がどうなったらどうなるというのは仮定の質問になりますが、現時点では場合分けを明確にする程の情報がない、と捉えています。

§16Question

前回 10月の短観で、コロナの中でもITが日本経済を牽引する構図が明らかになっているかと思うのですが、その後約2 か月経っていて、この足許の直近の動きはありますけれども、国内外で、そうした動きが具体的な業種などを含めて、どのようになっているのかという安達委員のご見解をお伺いできますでしょうか。主に、ITを中心に、どのようにみていらっしゃいますでしょうか。

§17Seiji Adachi

まず、新型コロナウイルス感染症の状況においては、私もあまり外に出歩いて見ているわけではないのですが、例えば再開された飲食サービス等をみても、なるべく人との接触を避けるようなオペレーションが増えてきている印象があります。この動きは特に大きいチェーン店というよりも個人で経営されている小さな飲食店で本格的に拡がっている、そういうところにお金をかけながら事業をまた再開させる、という動きが拡がっており、そういう意味では、生産性はサービス業の分野でもじりじりと上がる可能性を秘めていると思います。また、よく言われていることですが、やはりリモートワークを積極的に活用していかないとコロナ禍では企業のオペレーション自体が回っていかないということは、殆どの企業の中で定着したと思います。当初はやはり設備も十分ではなく、マシントラブルも結構あったようですが、最近はかなりスムーズに進み、割と良い機械を揃えた企業もありますので、そういう面でも進んでいるのではないかと思っています。

§18Question

大きく二点伺いたいのですが、まず、安達審議委員に先ほどおっしゃって頂いた、セクターの中でも資金繰りに困っている、困っていないとバラツキがある、不均一性とおっしゃいましたか、全体として国内企業の資金繰り環境が改善してきているという話だとは思うのですが、やはりまだまだ一部に厳しさがあるという中で、こういう一部の厳しいところに対しても引き続きコロナオペとして対応が必要だというふうなお考えなのかという点をお伺いします。もう一つは、今後、いずれ感染症が落ち着いてくれば、コロナオペの修正ですとか、廃止というのもみえてはくると思うのですが、その後になって、やはりコロナは不確実性があるということで、再びまた感染症が増えてきた場合に、例えばコロナオペを再び導入するとか、拡充するとか、そういう政策のスジ論として、それは適切だと考えるのかどうなのかをお伺いします。

§19Seiji Adachi

まず、不均一性に関連したところですが、要するに新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(コロナオペ)を続けるかどうかの一つの要素としては、もしコロナ禍がなかったらきちんと事業ができていたかもしれないという企業と、もともと収益性が非常に低い、そして既存の債務の利払いすらも危うかったかもしれない企業があって、コロナオペと政府の政策対応等のもとで資金供給を受けている先はもちろんあると思います。コロナ禍においては、やはり前者といいますか、なるべくコロナが無ければ普通に事業活動ができていた企業を助ける方を優先すべき状況であると思っています。その観点と、いわゆる一種のモラルハザードかもしれませんが、本当は事業を継続できないのに上手いこと制度を利用して事業を継続している企業、産業の新陳代謝等を阻害するいわゆるゾンビ企業の副作用とどちらが大きいかというのを日々確認し考えながら、コロナオペの継続の是非を考えていかねばなりません。そういう意味で、今のところまだオープンクエスチョンだと申し上げたわけです。このため、そういう意味ではどちらを優先すべきかという問題は、緊急事態宣言も現時点では出されておらず事業活動も再開されている状況ですが、その中でオミクロン株が出てきたので、まだ定まってないと思っています。

§20Seiji Adachi

できるだけ決定のタイミングまでに考えて、何らかの結論を出していきたいというのが今のスタンス、オープンクエスチョンということです。二点目ですが、これも仮定の話で、やめるかどうかも全く決まっていない状況ですが、当然コロナ禍により、程度の問題ですけれども、また強制的に経済活動が止まってしまう状況が万が一来るのであれば、当然それがなければ事業を継続できる企業が立ち行かなくなることになるので、仮に一度やめたとしてももう一度導入することに関しては、問題はないのではないかと考えています。ただ、そうした事態が起こるかどうかはまだ全然わからないということです。もう一つは、やはりこれは日本銀行だけでなく、政府の施策もあってのことですから、政府との協調もポイントとしてはあると思います。以上