安達審議委員記者会見(2022年6月2日)要旨
全文
§1Question
まず、午前中に金融経済懇談会が実施されましたが、その中での主要なやり取り等についてご紹介頂ければと思います。次に、北海道内の経済状況について、現状と今後の見通しについて審議委員のご所見をお伺いできればと思います。
§2Seiji Adachi
まず、本日の金融経済懇談会では、北海道の行政、経済界および金融界を代表する方々から、地域経済の現状や課題のほか、日本銀行の政策面に関して色々なご意見を賜りました。この場をお借りして、改めて御礼を申し上げたいと思います。きわめて有意義な意見交換ができたと認識しています。非常に多岐にわたる話題でしたので、全てをご紹介することはできませんが、非常に印象が強かった話題を私なりに整理して申し上げたいと思います。北海道経済は、二番目のご質問にもありますのでここでは簡単に申し上げますと、オミクロン株のまん延で 1~3月期に思い切り落ちたところから回復を見せている、というのが概ねの状況だと思います。ただ、足許のウクライナ情勢や原材料価格の高騰、円安等もあって、先行きに対しては懸念を持っている企業の数が足許増えているとの印象を受けました。より長期の話として、北海道は、食、農業・漁業などの第一次産業が非常に強い地域だと思いますが、その中で、高齢化や人口減少社会を迎える中、例えばDXを利用するとか、そういう形で北海道経済の持つ強みを長期的により活かすにはどうすればよいか、といった課題に、財界の方々および個別企業の方々が熱心に取り組んでいらっしゃる様子が窺われました。金融面では、感染症対策ということで金融機関が尽力され、融資を実行して企業の資金繰りを支えることを行ってこられたわけです。
§3Seiji Adachi
その結果、足許総じて企業の資金繰り悪化はみられないものの、足許の原材料価格の高騰等で今後収益環境が悪化すれば、資金繰りにも何らかの問題が生じるかもしれないという懸念があるというご説明を頂きました。そうしたことを踏まえ、私どもが金融政策を運営するうえでご意見を参考にさせて頂きつつ、慎重に政策対応を図る、また、金融システムの安定性を確保することに努めたいと思っています。二番目の金融経済情勢は、先ほど話をさせて頂いたところもありますが、足許どうかというと、特に1~3月期は、北海道経済は個人消費のウエイトが高い中、オミクロン株の影響でサービス消費等を中心にかなり強い下押し圧力がかかりましたが、4月以降、回復を見せているところです。特にゴールデンウイーク辺りは、人流の回復も相応にみられて、持ち直しから横ばい圏内に入ってきている状況です。ただし、先行きについては、既に申し上げた通り、原材料価格の高騰、円安、そしてウクライナ情勢の影響によって懸念を持つ企業が増えている印象です。これは北海道経済の特徴でもありますが、特に国内サービス産業が多いので、円安についてはどちらかというとマイナスと意識している企業が多いとの印象を受けました。
§4Question
挨拶要旨の中でも、為替については金融政策の対象ではないとあったと思いますが、今のお話の中でも、北海道経済については製造業のウエイトが低いということで、円安の影響を強く受けるところがあると思いますが、北海道経済に対する円安の影響の受け止め方、今後の考え方を教えてください。
§5Seiji Adachi
原材料価格の高騰と円安の影響は基本的には分けて考える必要があるわけですが、現象としてはコスト上昇で共通しています。本日の出席者の方々の意見を集約しますと、基本的に皆さまコスト増の収益に与える影響をかなり懸念されていました。一方、コロナの中で、資金繰り支援を金融機関から受けている企業がもちろん多いわけですが、そろそろというか、一部企業では既に始まっていると思いますが、融資を返済する局面に入ってきて、今後返済が本格化する中で、収益が悪化する状況を迎えると、返済を含めた資金繰りが懸念されます。その中で円安ということなので、もし金融政策で円安を止めるとすれば、逆に金利を上げるという話になりますが、その場合資金繰りにとってはマイナスになります。その兼ね合いをどのように考えるのかが、今後の課題であると思っています。
§6Question
日本経済の現状のことで、講演の中では基調としては持ち直しているということで、4月の判断と変わっていないと思いますが、それ以降、4月の生産が-1.3%、実質輸出も大きめのマイナスで、供給制約も長引く懸念があり、更に中国の減速等があって、世界経済への影響が心配されるかと思います。4月と比べて経済の下振れリスクの度合いに関して、高まっているような気もしますが、その辺をお伺いできればと思います。
§7Seiji Adachi
基本的に想定していた持ち直しの動きの一つの側面としては、輸出が比較的堅調であり、そして輸出の裏にある生産もそこそこ堅調でした。しかし、ごく足許で、やや懸念が高まっているというのは、ご指摘のように、生産が落ちているというところで現れていますので、下振れリスクが比較的大きくなっている印象があります。一方で、もう一つ、2月、3月辺りから懸念していたことは、各種値上げの動きが個人消費に大きな下押し圧力をかけるのではないかということでしたが、私がみる限り、色々なミクロデータを含めて意外と底堅い印象があります。また、景気ウォッチャー調査をみても、家計はやはり先行きに懸念を持っていますが、実際には、1~3月期のオミクロン株のまん延から底打ちして、比較的堅調というか、底堅いのかなと思っています。また、家計の値上げ許容度も比較的上昇しているというか許容しているので、そこは良い意味で期待を裏切っているところがあります。このため、総合評価ではプラス・マイナスゼロになっているという認識です。
§8Question
賃金上昇についてお尋ねしたいと思います。輸出産業では業績が好調で、賃金上昇の波というか兆しが出てきているのかなと思いますけれども、その点について、現時点でどうご覧になっていますでしょうか。もう一点は、今回の講演の中で、日本の雇用形態について言及されているかと思いますが、この雇用形態の変化といったものが、今後の賃金に関して、どういった影響を与えているのか、その辺りの話を伺えますでしょうか。
§9Seiji Adachi
まず、今年度につきましては、まだ絶対水準というか、デフレが解消するほどの賃上げ圧力はみられていないのが現状ですが、それでも、特に業績の良い大企業中心に、賃上げの動きは予想したよりも強かったように思います。また、6月、7月辺りに支払われる賞与に関しても、見通しとしてはそれほど暗くはない状況かと思います。その理由は基本的にははっきりしていて、昨年度の売り上げや収益が相対的に良かったところがあると思います。ただ、持続性については、価格転嫁の状況に依存するところもあるとは思いますが、まだ予断なくというか、どちらかというと慎重に見る必要があると思っています。来年度、どれくらいの賃上げ等が今年度に引き続いて行われるかというところが、デフレ解消に向けては非常に重要な要因になると思っています。次に、日本的雇用と賃上げとの関係ですが、基本的には、賃上げというと、例えば従業員一人当たりの時間当たり賃金がどれくらい増えているか、という議論ですけれども、日本的な雇用環境がある程度守られていれば、全体的に、逆に言うとあまり不平等さもなく賃上げがなされていき、デフレ圧力の解消も非常に容易になる可能性はあります。しかし、このデフレ下の状況の中で、日本的な賃金体系を見直して例えば成果報酬のような形になると、極端な話、個々人によって給与の水準やその伸びが違うという状況が生じ得ます。
§10Seiji Adachi
そうすると、マクロでみて賃上げがどうだから、その結果としてデフレがどのように解消していくというパスが、従来よりもやや不透明になる、という可能性もあるのではないかと思っています。そこは、雇用体系が全体としてどうなっていくかとの兼ね合いですので、ミクロ情報も含めて、丹念に見ていきたいと思います。
§11Question
一点目は、入国制限が緩和され、これから少しずつ観光客等の動きも再開してくるということを踏まえたうえで、特に北海道は観光客の需要というのは多いところだと思いますので、地域経済に今後どう影響するとお考えか、教えてください。二点目は、米国経済について、冒頭の挨拶の中でも、リスクだということをおっしゃっていたと思いますけれども、今物価が上がっている中で、例えば今後急速に米国の景気が冷え込んだ場合などに、今度は逆に一気に円高に振れるようなリスクをどの程度考えていらっしゃるか、という点について伺えればと思います。
§12Seiji Adachi
まず一点目のインバウンド復活の兆しというか可能性については、今回北海道の財界の方々と色々な話をさせて頂く機会がありましたが、基本的には皆さま非常に歓迎していました。ただ、まだ制限付きということで、急に復活するわけではありませんので、幾分慎重な見方をされていたかと思います。ただ、方向性としては、やはりインバウンドが戻ってくることで、今までのコロナ禍から少し一歩踏み出す良い機会になるのではないかと期待しています。一方で、北海道に限らないとは思いますが、コロナ禍の状況で廃業される方も結構いらっしゃいます。これまではあまり表に出てこなかったサプライサイド、つまりサービスを提供する方の供給というのも非常に重要です。今回お話しさせて頂いた方の中にも、果たして供給が追い付いていけるのかということを心配されている方もおられましたので、注意する必要があると思います。二点目の米国については、可能性はどれくらいかを具体的に数字でお示しすることはできないのですが、今の米国のインフレの状況をみると、これは原材料価格の高騰ももちろんありますが、それは一部であって、基本的には賃金上昇圧力の高さや住宅価格の上昇に伴う住居費関連の上昇が非常に大きいと思っており、講演でもそういう話をさせて頂きました。
§13Seiji Adachi
逆に言うと、そこが解消しないと米国のインフレも解消しませんので、住宅価格の上昇が相応に減速するとか、株価の調整が進むということがないと、米国のインフレの減速はみられない可能性もあります。そういう意味では、現在円安は進んでいますが、米国の景気減速によって逆の方向に進むリスクも、十分意識しておく必要があるのではないかと思っています。
§14Question
一点目は、午前の講演で、金融引き締めが時期尚早であり、その理由として企業や家計の借入負担の増大を指摘されておられました。これは、ある意味常に存在する問題だと思いますが、今回あえて言及されておられるのは、やはりより慎重に対応するべき局面にあるということを強調されたいということでしょうか。二点目は、先ほど家計の値上げ許容度が上がっているとおっしゃいましたが、インフレ期待、実際のインフレ見通しが上振れる可能性、既に上振れる見通しの方が強いのか、この辺の見通しをお伺いします。
§15Seiji Adachi
金融政策の観点から申し上げると、現状、目先の円安について、金融政策で対処してほしいという要望が比較的寄せられます。しかし、今回の場合、コロナ禍からようやく立ち直るという言い方まではいきませんが、ウィズコロナであっても経済活動をこれから本格化していくという状況です。しかも、それ以前のコロナ禍の状況において、かなりの金融的な支援を受けて何とか存続してきた企業が、今度は資金を返済しないといけない中、資金の返済を含めた企業金融面の話は、コロナ禍からの正常化を迎えるにあたって、おそらく従来にも増して非常に重要な要因だと思っています。ですので、正常化について必ずしも慎重化しないといけないという意味合いは含んでいないのですが、円安による物価上昇、コスト高に対応しなければならないという比較的一方的な話が進んでいたので、実際の経済の運営の観点からは必ずしもそうではない、ということを指摘させて頂いたつもりです。二点目の値上げ許容度につきましては、生活必需品に近い食品などの価格が上がっている割には消費が大きく下がっていないという状況で、高まっているというより底堅いという感じだと思います。インフレ期待については、コロナ禍の前半にかなり落ちたところからは大きく上がってきています。
§16Seiji Adachi
しかし、家計が全体としてインフレを意識するほど上がっているか、言い換えると、食料品等を中心に起こっている現状のインフレが、どんどん他の財にも波及していき、全体としてインフレが中長期的に続くと予想され始めているか、と言われると、そこまでは至っていないのではないかと思います。
§17Question
一点目は、午前の挨拶で、委員は現時点では金融政策の引き締め方向への修正は時期尚早として、いくつかの点を挙げて強調されましたけれども、それではどういう条件が整えば、また、いつになったら金融政策の修正の議論が可能になるのかというところをお聞かせ頂きたいと思います。二点目ですが、同じく挨拶では、アメリカ・中国の景気の下振れリスクということを強調されていましたが、委員としては、現時点で追加緩和の是非についてはどのようにお考えでしょうか。
§18Seiji Adachi
金融政策の正常化については、基本に立ち返ると、まずは 2%の「物価安定の目標」を達成するということだと思います。現状の金融政策運営上、フォワードガイダンスもありますので、原油価格など──私は生鮮食品価格も同様だと思いますが──の短期的な変動を均したうえで、いわゆる実力ベースでの 2%近傍の物価上昇をまずは実現する。そして、1年程度とも言われていますが、安定してから、という話ですので、基本的にはそれに準ずるべきだと思っています。ただ、状況は色々変化しますので、期間について、例えばきっちり1年でなければだめなのか、などといった話はもう少しフレキシブルでもよいかもしれません。基本的には従来からの基準に準ずるべきであって、かつ、いつまでになどの期間は定めない方がよいと思っています。二番目の追加緩和についてですが、これはなかなか難しい議論です。というのは、コロナで状況が複雑化しています。例えば、コロナ関連の融資の継続如何にもよりますが、そのような形で金融機関の尽力がコロナ禍では非常に大きかったと思っています。例えば、コロナ禍で特にサービス産業の需要が壊滅的になくなった状況のもとでも、廃業がたくさん出るとか、企業倒産がたくさん出るというような状況がなんとか少なく済んだのは、基本的には企業金融面の支援がうまくできたからだと思っています。
§19Seiji Adachi
そこで単純に追加緩和をすることになると、金融機関の収益に対する悪影響を想定しないといけない状況になっているというのが一般論だと思います。本当の状況を精査しなければならないのは事実ですが、あえて追加緩和をして、なおかつマクロ環境の大きな下振れに対するプラス効果が出るのかどうか未知数です。もし、そのマイナスの影響を相殺して余りあるプラスの効果があるのであれば当然果敢に実施すべきです。しかし、その辺については、現状では非常に大きな視点に立って、世界経済の変調の中で追加緩和をすべきだというような見方に関しては、基本線ではそうだと思いますが、もう少ししっかりとみておく必要があると考えています。
§20Question
午前中の挨拶の中で、2%の物価目標を実現するために、企業の価格引き上げが 2%の物価安定の目標の大きなカタリストになると言われていましたけれども、これはどれほど実現する可能性があるのか、ということを教えてください。
§21Seiji Adachi
具体的な数字、パーセンテージで話をすることはできませんが、確かに、一部商品ではあるものの今回の価格転嫁の拡がりがりについては、コストプッシュの影響が大きいのは事実です。もっとも、例えば日銀短観の販売価格判断DIを色々な業種でみると、次の四半期に販売価格を引き上げたい、と答えている企業の比率は、驚くほど上がってきていると私は思います。それは、コストプッシュの影響であるとはいえ、価格転嫁をしても、それなりに需要はついてくるというご判断をされている企業の経営者の方が多いのだと思っています。ですので、先ほどのご質問にありましたように、講演では米国・中国の下押し圧力の話を強調しましたが、逆に価格転嫁が進むことによって、ひょっとしたらインフレ率が実力ベースでも 2%に近づく可能性も実はあるということです。そういう意味では、両極端のシナリオが想定しようと思えば想定できるという、かなり不確実性が上下に大きい状況かと考えています。以上