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日本銀行記者会見2017年10月13日黒田東彦, 総裁

総裁記者会見(2017年10月13日)要旨

全文

§1Haruhiko Kuroda

今回のG20では、いつも通り、世界経済、国際金融情勢、さらには金融セクター、国際課税等が議題となっています。私からは、世界経済のセッションで日本の経済・物価動向や金融政策等についてお話ししました。日本経済は、内需・外需がバランスよく景気を牽引しており、景気拡大の裾野が様々な経済主体に及んでいることを申し上げました。また、景気拡大のペースに比べると物価は弱い動きを続けていますが、先行き、需給ギャップが改善を続けるもとで、価格引上げの動きが拡がり、物価上昇率が高まっていくことを説明しました。金融政策面では、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、金融環境が極めて緩和的な状況が続いており、今後とも2%の「物価安定の目標」の達成に向けて、強力な金融緩和を進めていく方針であることを申し上げました。金融セクターに関するセッションでは、規制の影響評価について発言しました。金融規制改革は、経済の持続的成長と金融システムの安定の両立が必要です。そのためには、規制が経済成長を阻害しないよう、規制の影響評価を実施していくことが重要です。これに関し、10月6日のFSB本会合で、新たに今後 2年間で取り組むテーマとして、「金融規制改革の金融仲介機能に対する影響調査」が決定されたことを歓迎しました。

§2Haruhiko Kuroda

我々としても、2019年のG20議長国として、このテーマの取組みについて積極的に協力していきたいと考えています。

§3Question

今、ニューヨークの株価が連日最高値を更新し、そして日本の株価もかなり高い水準にあります。米国では住宅価格もかなり改善していて、また世界的に緩和的な金融環境の中で、これはバブルと言えるのかどうか、見解を教えて下さい。

§4Haruhiko Kuroda

リーマンショック後、各国の中央銀行は、金融危機が世界経済不況や恐慌につながらないよう、大規模な金融緩和を実施しました。そうした中で、我々も含めて常に金融市場に行き過ぎがないかはよくチェックしていまして、この点は欧米も日本もこれまでのところ金融市場で大きな行き過ぎがありリスクが高まっているとは考えていません。ご承知のように、株の場合は短期的には色々な要素で動きますが、中長期的には基本的に企業の収益見通しを反映して動いていきます。現状、米国でも欧州でも日本でも企業収益が好調で、日本の場合は過去最高水準の収益です。欧米の場合も非常に高い企業収益が実現しており、今後の見通しも比較的明るいことを反映したものではないかと思っています。いずれにせよ、短期的な株式市場の動きというのは様々な要素に様々な形で影響されます。他の金融市場をみても、各国の中央銀行ともよく注視していますが、今のところ目立った行き過ぎが生じているとは考えていないと思います。

§5Question

海外投資家は、日本銀行のETF買いに関心を持っています。7月の会見で黒田総裁はコーポレートガバナンスを阻害しないとおっしゃられたのですが、仮に例えば ETF経由で大株主になられている会社で問題企業があったとします。そういう会社に関しても例えば不作為で議決権行使を検討しない、それもコーポレートガバナンスを阻害しないということなのでしょうか。

§6Haruhiko Kuroda

ETFの買入れについては、いわゆるリスクプレミアムに働きかけて、株式市場がより健全かつ活発に機能するように、量的・質的金融緩和の一環として行っています。現時点でETFの買入れを行った結果として、株式市場の時価総額の3%程度の株式をETFを通じて取得していると思いますが、これ自体大きなシェアになっているわけではありません。もう 1 つはETFを組成して管理している金融機関が、適切なコーポレートガバナンスのため、スチュワードシップコードを守って適切に株主として行動しているということです。欧米でもこうしたパッシブ運用がかなり拡がっていますが、わが国の場合はまだETFが全体に占めるシェアもそれほど大きくありませんし、先ほど申し上げたように日本銀行がETFを通じて保有している株式も 3%程度です。いずれにせよ、おっしゃることは、ETFを日本銀行が買っていることではなく、要するにETF自体が、こうしたパッシブな形でやること自体が問題というご指摘かと思いますが、それ自体が問題と言っている人はいないわけです。日本銀行が持っている場合も他の投資家が持っている場合も全く同じように、ETFを組成して管理している金融機関が適切なスチュワードシップ等に基づいて行動しているということだと思います。

§7Question

今回のG20の議論の内容についてお伺いしたいのですが、欧米の中央銀行が金融緩和を縮小し正常化に向かう中で、リスクについてどんな議論が具体的になされたかということ、また、先ほど日本は今後も金融緩和を継続していくことをご説明されたということですが、これについての各国の反応を教えて下さい。

§8Haruhiko Kuroda

日本の金融政策については十分な理解が得られたと思います。私からは、わが国の景気は緩やかに拡大している一方で、消費者物価は引き続き弱めの動きとなっており、2%の「物価安定の目標」の実現までにはなお距離があることを説明したうえで、日本銀行としては「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、今後とも強力な金融緩和を粘り強く進めていく方針であることを説明しました。G20のコミュニケ等で常に指摘されているように、金融政策はあくまでもそれぞれの国のいわゆる domestic mandate、それぞれの国の物価の安定を実現するために行われているわけですし、経済・物価の状況が違えば、金融政策の状況も違ってくるのは自然なことです。この点については理解は十分に行き届いていると思いますし、わが国の金融政策について何か批判めいたことは全くありませんでした。

§9Question

最初のほうの、欧米が正常化に向かうことのリスクについては具体的にどのような議論が行われたのでしょうか。

§10Haruhiko Kuroda

IMFのレポートでは、米国の金融の正常化が今皆が考えているよりもっと急速に進むと、新興国に対して影響が出る可能性があるのではないかと指摘されていると思いますが、今回の会議の中で具体的にそうしたリスクを指摘する声は新興国を含めて全くなかったと思います。

§11Question

今日は世界経済の強さが再確認された一方、物価の停滞、つまり日本のみならず世界的に、完全雇用に近い状態で物価が上がらないという悩みを抱えているかと思いますが、この点については、どういった議論がなされたのでしょうか。

§12Haruhiko Kuroda

日米欧とも経済は順調に成長しており、特に米国の場合はしっかりと成長しているわけですが、日米欧とも、過去のフィリップス・カーブで想定されるものと比べると賃金の上昇テンポが鈍いということは、共通の状況だと思います。ただ、その背後にある労働市場の状況というのは、それぞれの国によって違っていると思います。わが国の場合、ご承知のように、パートタイムの賃金は 3%程度上がっているわけですが、正規雇用の所定内賃金は0%台の半ば程度しか上がっていません。労働市場が正規と非正規で分かれていることがある程度影響している可能性もあると思いますし、わが国の場合は1998年から2013年まで15年間デフレが続いて、その間ベースアップもないということが続いたことがあって、企業が既往最高水準の収益のもとでも正規雇用の賃上げに比較的慎重ということもあると思います。ただ、賃金のそうした状況と別に、わが国に非常に特徴的なことは、賃金はそうはいっても上がっているわけで、特に非正規は3%上がっているわけですが、それを価格に転嫁するのに企業が非常に慎重という点でして、ここにも長く続いたデフレマインドのようなものがあるのかもしれません。一方、そのもとで製造業・非製造業ともに、特に非製造業において、労働節約的な技術や設備に大規模な投資をしており、それによって賃金の上昇を価格に転嫁しなくても済むようにしているわけです。

§13Haruhiko Kuroda

あるいは、ビジネスモデルを変えて、労働投入を減らしてサービスをするということも特に非製造業で起こっており、その過程で価格がなかなか上がってこないということがあります。他方で、今言ったことは、労働生産性を上げているわけです。したがって、成長力を強化し、長い目でみれば実質賃金、名目賃金ともに上がっていく要因になると思いますが、短期的には賃金が上がっても物価がなかなか上がらないという、これは日本独自の特徴的な要素だと思います。賃金のほうが従来ほど上がっていかないというのは、ある意味日米欧で共通していると思いますが、そのもとでも価格になかなか転嫁していかないというのは日本の今の状況の特徴かと思っています。そうしたことを、色々な機会に私からも説明はしています。

§14Question

リスクについてお伺いします。1 つは昨日のG7の場で北朝鮮について議論されたということだったのですけれども、G20でこれについて議論があったのか、議論があったとすればどのような評価であったのか。もう 1 つは、先ほどの議長国会見でドイツのショイブレ財務相が、最大のリスクは何かと問われ、慢心ですかね、complacency を戒めるべきと、ちょっと悩んだ後におっしゃったのですが、黒田総裁からみて最大のリスクを強いて挙げるとすれば何であるかを教えていただきたいと思います。

§15Haruhiko Kuroda

前段の北朝鮮リスクについて、具体的に G20で掘り下げた議論があったとは思っておりません。色々な方が地政学的リスクがあるということは言っていましたが、北朝鮮リスクということをはっきりと言われた方は、G20ではいなかったかもしれません。また、世界経済自体はご承知のように米国、欧州、日本、そして中国と、それぞれ比較的順調に成長していますし、先ほど申し上げたように、金融の行き過ぎですとか、あるいは国際的な資本移動が目詰まりしてどうこうなるといった状況にもなっていません。比較的万事順調にいっているようにみえるため、complacency に陥らないように常に状況をよく注視して、対応が必要になった場合には迅速に対応する必要があるとは思いますが、具体的に今の時点で大きなリスクが経済に内在している可能性は小さいと思います。ちなみにIMFは、米国が今考えられているよりも急速に金融を引き締めていくと新興国に影響が出るかもしれないということと、中国が進めている構造改革が十分に行われないということになると金融的なリスクがあるかもしれないということは報告で言っています。

§16Haruhiko Kuroda

もっとも、正直なところ、米国や欧州、日本、中国、それから新興国も成長が加速していまして、非常に心地良い状況という感じが強く、リスクについて触れてはいましたが、ショイブレ財務相が懸念されたように、それが今すぐに経済に影響が出そうだとはあまり皆思っていなかったように見受けられました。

§17Question

今しがた、ショイブレ財務相が会見の中で、世界経済の成長が力強いこの機会を捉えて、ドイツとしては構造改革に取り組むべきと訴えました。成長が力強い間に何かをすべきだという議論がG20の中でどのようにされたのかということと、仮に日本が何かするのであれば、どういうところに焦点を当てるべきでしょうか。第2 に、G20やG7の場で、暗号通貨や仮想通貨に関する話し合いや意見交換はあったのでしょうか。国際的に今年に入ってから、ビットコインの高騰であったり、バーゼル委員会で暗号通貨に関するレポートがあったりするようなのですが、そういったものを踏まえた意見交換はあったのでしょうか。

§18Haruhiko Kuroda

構造改革については、IMFが常に強調していますし、G20も強調していますが、金融政策、財政政策、構造改革という三本柱をそれぞれの国の事情に合った形で活用して持続的でバランスのとれた成長を実現しましょうということが基本的な合意になっています。そうした中でも、今は世界経済が順調に成長していますので、そうした時期にこそ、様々な必要な構造改革を進めていくべきだということは、IMFも強調していましたし、様々な方々が強調しておられました。日本について、特に具体的な話があったわけではないのですが、一方で財政収支が順調で経常収支が黒字の国は、もっと財政支出をしたらよいという話と、逆に政府債務が非常に大きくなっている国などは財政・構造改革を進めたほうがよいということは、IMFが指摘していました。仮想通貨については、今回、特に議論があったわけではないと思います。

§19Question

黒田総裁からは、リスクのようなものについてご指摘はなかったのでしょうか。

§20Haruhiko Kuroda

日本経済については、先ほど申し上げた通り、実体経済は順調に拡大していまして、内外需のバランスもとれていますし、内需の中では公需と民需もともに伸びているということで、日本経済自体について何か大きなリスクがあるということは申し上げませんでしたが、地政学的リスクも含めて、先ほど私が申し上げたような海外経済からのリスクはあり得るということは申し上げました。

§21Question

くどいのですけれども、最大のリスクは何だと思いますか。

§22Haruhiko Kuroda

これは色々な見方があります。何か起こった時のショックの大きさとその起こる確率があるわけですが、起こった時の影響は大きくても、確率が小さければ現時点で大きなリスクになっていないかもしれない。しかし、一方でtail riskというものもあります。先ほど申し上げたように、国際金融の面では様々なことが起こり得ますので、どちらかと言えば私としては、地政学的リスクと、国際金融上の特に新興国に対する影響がないかどうかを十分に注視していかなければならないとは思いますけれども、何か 1 つに絞ってこれが最大で次はこれということは申し上げませんでした。以上