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日本銀行講演2015年11月6日黒田東彦, 総裁

【講演】「2%の『物価安定の目標』実現に向けた課題」(内外情勢調査会)

全文

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2015年11月6日 日本銀行 日本銀行総裁黒田東彦2%の「物価安定の目標」実現に向けた課題―― 内外情勢調査会における講演 ――

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1.はじめに日本銀行の黒田でございます。本日は、内外情勢調査会でお話する機会を賜り、誠に光栄に存じます。日本銀行は、先月末の政策委員会・金融政策決定会合において、「経済・物価情勢の展望」、いわゆる「展望レポート」を取りまとめ、2017年度までの経済・物価見通しを公表しました。このところの経済情勢をみると、中国をはじめとする新興国経済の減速の影響から、わが国の輸出や生産に鈍さがみられています。また、物価面では、原油価格の大幅な下落の影響などから、消費者物価の前年比は0%程度まで低下しています。しかしながら、これからご説明するように、日本経済のファンダメンタルズはしっかりとしており、企業や家計を取り巻く環境は、数年前に比べて大きく好転しています。また、物価の基調も着実に改善しています。日本銀行が一昨年4月に導入した「量的・質的金融緩和」は、デフレの脱却に向けて所期の効果を発揮していると考えています。日本銀行は、「量的・質的金融緩和」を着実に推進し、緩和的な金融環境をしっかりと継続していきます。そうしたもとで、企業や家計の経済活動は活性化し、日本経済は潜在成長率を上回る成長を続けるとともに、2%の「物価安定の目標」は、必ず達成できると考えています。本日は、「展望レポート」の内容を紹介しながら、日本銀行の経済・物価見通しや金融政策運営に対する考え方について、お話したいと思います。

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以下ではまず、経済・物価見通しについて、最も蓋然性の高いと考えられる中心的なシナリオをご説明し、その後、このシナリオに対するリスク要因をご説明したいと思います。

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2.日本経済の現状と先行き(高水準の企業収益と積極的な設備投資スタンス)はじめに、日本経済の現状と先行きについてお話します。ご承知の通り、

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このところ、中国をはじめとする新興国経済の減速が明確になってきており、これがわが国の輸出や生産にも影響を及ぼしています。また、今年の4~6月期は、天候不順の影響などから個人消費も幾分弱めの動きとなりました。こうしたことを受け、展望レポートにおいても、2015年度の実質経済成長率は、 7月の中間評価時点の1.7%から1.2%に下方修正しています(図表1)。もっとも、企業収益は過去最高水準で推移しており、雇用・所得環境の改善は続いています。企業部門・家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムはしっかりと作用しており、日本経済は緩やかな回復を続けていると判断しています。このように、輸出や生産のもたつきにもかかわらず、企業収益が増加を続けるというのは、わが国の過去の景気回復局面ではあまりみられなかった現象です。その背景としては、2つの点を指摘できます。第一は、内需がしっかりしていることです。過去の景気回復局面では、輸出の増加を起点として、製造業の企業収益と設備投資が増加するという展開が一般的でしたが、今回は、内需の底堅さを背景に、非製造業の回復が目立っています。この点は、短観の業況判断DIや企業収益で、製造業よりも非製造業の改善がよりはっきりしていることからも確認できます(図表2)。

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内需を中心とした景気回復では、海外経済の減速から輸出の伸びが鈍化したとしても、それに対する景気全体の耐性は、過去のパターンと比べて相対的に高くなっていると考えられます。第二に、新興国経済の減速もあって原油をはじめとする資源価格が下落していることが、交易利得の改善を通じて、価格面から収益の押し上げに寄与していることです。すなわち、数量面でのマイナスを価格面のプラスが相殺するという、一種の自動調整が働いています。それに加えて、為替円安にも支えられた海外からの配当・利息の受取増加なども、このところの企業収益の改善に寄与しています。このように好調な収益環境のもとで、企業の設備投資スタンスは積極化しています。9月短観における2015年度の事業計画をみると、全規模全産業の設備投資計画は前年比+6.4%と、6月短観における+3.4%からさらに上方

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修正され、高めの伸びとなっています。海外経済については、先日公表されたIMFの世界経済見通しにも示されている通り、今年の世界経済の成長率は、昨年と比べて減速しますが、来年にかけては成長率を高めていくとみています(図表3)。先進国経済は、米国を中心にしっかりした回復基調が続いています。新興国経済は、当面減速した状態が続くと思いますが、中国は金融・財政政策の余地が比較的大きいもとで、当局が積極的な景気刺激策に取り組んでいますので、成長ペースを幾分切り下げながらも概ね安定した成長経路を辿ると考えています。その他の新興国も、先進国の堅調な成長の好影響が波及し、減速した状態から脱していくとみています。こうした海外経済の見通しを前提とすれば、わが国の企業部門の好調は、持続するとみて良いと思われます。(雇用・所得環境の改善と底堅い個人消費)次に、家計部門の動向についてご説明します。家計支出の重要な決定要因となるのは、言うまでもなく雇用・所得環境です。この点、労働需給は引き締まり傾向が続いています。有効求人倍率が、足もとでは 1.24 倍と 1992年以来の高水準となっているほか、失業率も3.4%と 1997年以来の水準まで低下しています(図表4)。特筆すべきは、輸出や生産のもたつきにもかかわらず、労働需給に引き緩みがみられないことです。

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実際、短観の雇用判断DIをみても、企業の人手不足感は一段と強まっており、労働市場は「完全雇用」と言って良い情勢にあります。企業収益が過去最高水準で推移し、労働需給のタイト化が継続するもとで、賃金には上昇圧力が生じています。毎月勤労統計で賃金の動きを確認すると、所定内給与は、2年連続でベースアップが行われたことなどから増加しています(図表5)。各種のアンケート調査をみると、夏のボーナスも多くの業種・企業で昨年を上回った模様です。このように、雇用・所得環境は着実に改善しており、昨年の消費税率引き上げ後に落ち込みがみられた消費者マインドは、全体として改善傾向にあります(図表6)。4~6月の個人消費は、軽乗用車の販売不振や、長雨などの天候不順の影響から幾分弱めの動きとなりま

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したが、各種の販売統計などをみると、7月頃からは多くの分野で増加に転じており、全体として底堅く推移していると判断できます。以上のような企業・家計の両部門における前向きの循環メカニズムのもとで、先行きのわが国経済は、本年度から来年度にかけては、足もと「0%台前半ないし半ば程度」とみられる潜在成長率を上回る成長を続けると予想されます。2017年度にかけては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動の影響を受けるとともに、景気の循環的な動きを映じて、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しつつも、プラス成長を維持すると予想されます。

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3.物価動向と2%の「物価安定の目標」実現への道筋(物価の現状と見通し)次に、物価動向についてお話します。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、「量的・質的金融緩和」導入直前の-0.5%から、昨年4月には消費税率の引き上げの影響を除くベースで+1.5%まで高まりました。しかし、消費税率引き上げ後、個人消費の弱めの動きが続いた中で、昨年夏以降、原油価格の大幅下落が生じた結果、消費者物価の前年比上昇率は低下し、このところ0%程度で推移しています(図表7)。もっとも、エネルギー価格の影響を除いてみると、物価の基調は着実に改善しています。たとえば、生鮮食品とエネルギーを除くベースでみた消費者物価の前年比は、13年10月以降、24 か月連続でプラスを継続しており、9月は+1.2%まで上昇しています。このように物価上昇が持続するのは、90年代後半に日本経済がデフレに陥って以来、初めてのことです。また、食品や日用品などについての日次や週次の物価指数も、本年4月以降、プラス幅の拡大傾向が続いています。さらに、消費者物価を構成する品目のうち、上昇した品目数から下落した品目数を差し引いた指標は明確に上昇するなど、価格改定の動きには、拡がりと持続性がみられています(図表8)。

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毎月の消費者物価は、エネルギー価格や為替レートの変動に伴う輸入物価の動向などの様々な要因によって影響されますが、物価の基調的な動きは、

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主として、経済全体としての需給バランス(需給ギャップ)と、中長期的な予想物価上昇率によって決定されると考えられます。こうした観点からみると、わが国の物価を巡る環境には、近年にみられなかった大きな変化が着実に進行しています。以下、詳しくご説明します。(需給ギャップの動向)需給ギャップは、マクロ的な需給バランスを表すものですが、具体的には、わが国経済全体としての設備や労働の稼働状況を表しています。まず、設備の稼働率については、日本経済が緩やかな回復を続ける中で、上昇傾向を続けていますが、足もとでは、新興国経済の減速を背景とした輸出のもたつきの影響がみられています(図表9)。この間、労働面では、さきほどご説明したように、労働需給のタイト化が続いています。今回の景気回復局面は、内需の堅調さを起点に、労働集約的な非製造業が主導していますので、労働需給のタイト化の影響が大きくなっていると評価できます。そのため、需給ギャップは労働面を中心として、着実に改善傾向を辿っていると考えられます(図表 10)。先行きについても、わが国経済が潜在成長率を上回る成長を続けるもとで、設備や労働の稼働率は一層高まり、需給ギャップは更なる改善を続けるとみられます。このため、需給面からの物価上昇圧力は、着実に強まっていくと予想されます。

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(中長期的な予想物価上昇率の動向)次に、中長期的な予想物価上昇率については、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられます。予想物価上昇率を把握する方法としては、まず各種のマーケット指標やアンケート調査などがあります。これらについて最近の動きをみると、幾分弱含んでいるものもありますが、総じてみれば、原油価格の大幅な下落にもかかわらず、横ばいとなっています(図表11)。また、実際に経済活動を行う企業や家計がどのような「物価観」に基づいて行動しているのかという点も重要です。こうした点からみた場合、本年度入り後は、先程申し上げたように、企業の価格改定を進める動きが続いています。

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家計においても、ベースアップを含む賃上げが多くの企業で行われ、所得の増加やその期待もあって、以前と比べ、値上げを受容するようになっていることがみて取れます。昨年4月、多くの企業が値上げに踏み切ったものの、消費税率引き上げ後の需要低迷により、ほどなく撤回を余儀なくされたのと比べると、状況は大きく異なっています。つまり、企業と家計の物価観は、特に本年度入り後に明確に変化しており、そうしたもとで、現在のわが国では、過去最高の企業収益を背景に、賃金の上昇を伴いながら、物価上昇率が緩やかに高まっていくメカニズムが着実に作用しています。(賃金と物価の関係)この点に関して、賃金と物価の関係について、もう尐し詳しく申し上げたいと思います。わが国の過去のデータをみると、賃金上昇率と物価上昇率は概ねパラレルに動いていることが分かります(図表12)。しばしば、「物価だけが上がって、賃金上昇がそれに追いつかなければ、実質所得が低下し、消費にマイナスの影響を与える」といった意見が聞かれますが、尐なくとも経済全体としては、そうした事態が持続的に生じることはありません。物価上昇に賃金が追いつかなければ、消費が減尐し、値上げを維持することが困難になります。逆に、賃金が上昇すれば、企業は利益を確保するため、値上げを行う必要が生じ、物価は上がります。

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つまり、実際に生じるのは、「賃金も物価も上がる」状況か、「賃金も物価も上がらない」状況のいずれかです。賃金上昇と物価上昇は、いわばコインの裏表のようなものです。日本銀行が現在行っている「量的・質的金融緩和」は、決して無理に物価だけを引き上げる政策ではなく、経済のメカニズムに従って、賃金の改善を伴うかたちで緩やかな物価上昇を実現しようとするものです。先行きの物価情勢については、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を推進し、実際の物価上昇率が高まっていくもとで、中長期的な予想物価上昇率も上昇傾向を辿り、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していくとみられます。企業の賃金・価格設定スタンスも積極化し、賃金上昇率の高まりを伴いながら、物価上昇率も次第に高まっていくとみています。

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消費者物価(除く生鮮食品)の前年比の先行きを展望すると、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられますが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、2%の「物価安定の目標」に向けて上昇率を高めていくと考えられます。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されますが、その価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度後半頃になると予想されます。こうした見通しを、10月の展望レポートの具体的な数字として申し上げると、2015年度は+0.1%、2016年度は+1.4%、2017年度は消費税率引き上げの影響を除くベースで+1.8%となります(前掲図表1)。7月時点における見通しと比べますと、2015年度と 2016年度については、原油価格下落の影響などから下振れていますが、2017年度については概ね変わっていません。

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4.経済・物価の先行きに関するリスク要因ここまでは、経済・物価の先行きに関して最も蓋然性の高いと考えられるシナリオについてご説明しました。しかし、実際の経済には様々な不確定要素がありますので、ここからは、先行きの経済・物価情勢に影響を与える可能性のあるリスク要因について述べたいと思います。経済の先行きに関するリスク要因として最も重要と考えられるのは、中国をはじめとする新興国経済の減速の影響です。中国経済は現在、投資主導の高成長から消費主導の安定成長への移行過程にあり、それに伴って、産業構造も製造業から非製造業へと重心が移りつつあります。そうした中、製造業では最近も弱い動きが続いているものの、その一方で、非製造業は好調を維持しています(図表 13)。また、本年前半の中国経済の弱さの一因となった地方財政の支出についても、中央政府の指示や地方財政の資金繰り緩和策などを受けて、最近は伸びを高めています(図表 14)。このため、本年末から来年にかけては、成長率は高まる方向にあると考えられます。

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もっとも、安定成長への移行過程において、鉄鋼や自動車産業などに代表される過剰設備などの構造的な問題が長期化するリスクや、財政支出の中身次第で、経済を押し上げる効果に関する不確実性があることは事実です。また、中国経済の成長ペースが持ち直したとしても、それが他の東アジア諸国の経済に与える影響には留意が必要です(図表 15)。中国では非製造業のウエイトが高まっているほか、製造業についても、中国国内で付加価値の高い部品や完成品を内製化する動きが進んでいるため、同程度の成長率であっても、中国の経済成長が、貿易を通じて他の東アジア諸国の輸出を押し上げる効果は小さくなっていると考えられます。その点を踏まえると、中国経済が持ち直しても、それがどの程度中国以外の東アジア経済を押し上げるかは不透明な部分が残ります。さきほど申しましたように、新興国経済の減速は、既にわが国の輸出や生産に影響を及ぼしており、この点は蓋然性の高いシナリオの中に織り込んでいます。新興国経済の減速がある程度の範囲に止まるのであれば、わが国経済は、内需がもともと堅調であることと、エネルギー価格の低下が実質所得の下支えになることもあって、経済全体としてはその影響を乗り越えて成長を続けると思っています。しかし、新興国経済が非常に大きく下振れたり、減速が長く続くような場合には、わが国経済への影響はより大きくなる惧れもあります。

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その際、重要なポイントとなるのは、わが国企業のコンフィデンスです。企業が、新興国経済の動向をみて先行きに強い懸念を持ち、設備投資の見送りや賃上げ幅の縮小などを行うようなことになれば、堅調な内需の先行きにも影響を及ぼすことになります。現時点においては、リスク要因という位置付けですが、意識しておく必要があると思っています。この点に関して、物価への影響という意味では、来年度にかけての賃上げの動向に注目しています。賃金上昇率と物価上昇率は概ねパラレルに動くこと、基調的な物価上昇率が既に明確に上昇していることは、既に申し上げた通りです。家計が実質的な賃金や所得を維持するためには、足もとの表面的な消費者物価上昇率の低下にかかわらず、こうした基調的な物価上昇率が賃

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上げに反映されていくことが重要であり、蓋然性の高いシナリオでは、相応の賃上げが行われると考えています。もっとも、新興国を中心とする海外経済の動向によっては、企業が不透明感を強く意識して、賃上げに対しても慎重になるリスクが考えられます。また、賃金上昇率が十分に高まらない場合には、消費者の物価上昇に対する抵抗感が強まり、物価の上昇ペースが下振れることになるリスクがあると考えられます。

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5.デフレからの脱却に向けた課題以上、日本経済は、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて着実に歩みを進めていますが、まだ途半ばであり、新興国経済などのリスク要因にも目配りする必要がある状況です。そこで最後に、デフレからの脱却と2%の実現に向けて、「企業行動」と「金融政策運営」の課題について述べたいと思います。繰り返しになりますが、現在、企業は過去最高水準の収益を上げており、労働市場は完全雇用の状態にあります。経済のメカニズムからすれば、こうしたもとでは、企業は将来に向けた設備投資を行うとともに、更なる生産活動を行うための労働力を確保するべく、賃金の引き上げを行うことが期待されます。実際、企業は前向きな設備投資スタンスを示しているほか、賃金についても、ベースアップの実現もあり、緩やかに上昇しています。しかし、程度の問題として、企業収益が歴史的な高水準となっていることと対比してみた場合、これまでのデータで確認される設備投資や賃金の伸びがやや鈍いという印象は否めません。企業が高水準の収益を獲得しながらも、なお支出活動に慎重さを残していることは、企業の現預金の保有がこのところ一段と高い水準に積み上がっていることからも確認できます(図表 16)。

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企業が高水準の収益を、設備投資や賃金支払いなどの支出に必ずしも十分振り向けず、その多くを手許の現預金として保有していることの背景には、現状においても、広い意味での「デフレマインド」が必ずしも払拭されていないということがあると思います。別の見方をすれば、企業が現在の高収益

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を一時的な追い風による windfall profit であると捉えており、なかなか積極的な活用に踏み出せないでいるということかと思われます。このような状態から抜け出し、企業がこれまでのマインドセットを大きく転換することは、デフレだった期間の長さを考えれば、もちろん簡単なことではありません。しかし、やるべき方向性は明確です。要は、「日本経済はデフレから脱却しつつある」という見通しを踏まえ、ポストデフレ時代の新たな経営戦略をしっかり立ててもらうことです。こうした見通しを持った企業にとっては、デフレのもとでは報われなかった「前向きの行動」が全く違ったものに見えるはずです。そうした行動なしには、将来の収益を生み出し、現在の企業価値を高めることは難しいと認識されるでしょう。全ての企業が一度に変わる必要はありません。そうした見通しを持つ企業の数が増えるに従って、経済は活性化していきます。そして、この流れは積極的な企業を中心に既に進行していますし、これが定着すれば先に流れに乗った企業が勝ちます。日本銀行は、そのための役割を果たします。この2年半、2%の「物価安定の目標」の実現を明確に約束し、「量的・質的金融緩和」を進めてきました。日本経済は着実に改善し、その実現に向かっています。日本銀行は、引き続き、2%を目指し、過去に例を見ないこの大規模な金融緩和を続けていきます。

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本日お話してきた通り、現時点で、日本銀行は、現行の政策を継続することで、2%を達成できると考えています。ただ、同時に、新興国経済の減速の影響など、経済・物価の下振れ要因も認識し、注意深く点検を続けています。今後とも、毎回の金融政策決定会合において、経済・物価の現状と先行き、様々なリスク要因、金融資本市場の動向などを十分吟味し、政策判断を下していきます。そして、2%の早期実現のために必要と判断すれば、躊躇なく対応します。ご清聴ありがとうございました。

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以上 2%の「物価安定の目標」実現に向けた課題物価安定目標」実現向けた課題― 内外情勢調査会における講演 ―2015年11月6日日本銀行総裁黒田東彦展望レポートの経済・物価見通し図表1(2015年10月)― 政策委員見通しの中央値、対前年度比、%政策委員見通中央値、対前年度、消費税率引き上げの影響を除くケース実質GDP 消費者物価指数(除く生鮮食品)影響を除くケス+1.22015年度+0.17月時点+1.7+1.4 +1.42016年度+0.77月時点+1.5 +1.97月時点+0.2 +3.1 +1.82017年度+0.3 +1.8+3.1(資料)日本銀行

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企業の業況感と企業収益図表2短観・業況判断D.I. 経常利益(「良い」-「悪い」、%ポイント)良い 11製造業非製造業(季節調整済、兆円)10 良い11 非製造業-20-10 悪い-40-30製造業 0-60-50製造業非製造業-3-2-105 06 07 08 09 10 11 12 13 1415年05 06 07 08 09 10 11 12 1314年15(注)経常利益は、金融業・保険業を除く。(資料)日本銀行、財務省IMFの世界経済見通し図表3主要国成長率見通し(15/10月時点)GDP成長率の推移(前年比、%)(前年比、%)2004~07年平均:+5.3% 2013年2014年2015年[見通し]2016年[見通し]+3.6+3.15 世界 3.3 3.4 3.1 3.6先進国 1.1 1.8 2.0 2.2+34+3.3米国 1.5 2.4 2.6 2.8ユーロエリア -0.3 0.9 1.5 1.6+3.42 1990~2003年平均:+3.3%IMF見通し(15/10月)日本 1.6 -0.1 0.6 1.0新興国・途上国 5.0 4.6 4.0 4.5中国 7.7 7.3 6.8 6.3ASEAN5 5.1 4.6 4.6 4.9(注)ASEAN5は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム。

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(資料)IMF 390 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 1416年

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労働需給図表4(季節調整済)節整済倍失業率と求人倍率短観・雇用人員判断D.I.1.21.3 6完全失業率(左目盛)有効求人倍率(右目盛)(季節調整済、%)(季節調整済、倍)-25-20(「過剰」-「不足」、%ポイント、逆目盛)1.01.1-15-10不足0.70.80.9 -50.50.60.7全規模大企業過剰0.30.406 07 08 09 10 11 12 13 1415年06 07 08 09 10 11 12 13 14 15大企業中小企業年06 07 08 09 10 11 12 13 1415年06 07 08 09 10 11 12 13 1415年4(資料)総務省、厚生労働省、日本銀行賃金図表5所定内給与夏季賞与(アンケート調査)(前年比、%)2015年度夏季0.5 (前年比、%)日本経済団体連合会 2.80.0日本経済新聞社 2.1-0.5労務行政研究所 3.0-1.0厚生労働省 4.0-1.5(注)所定内給与の2015/3Qは、7~8月の前年同期比。(資料)厚生労働省、日本経済団体連合会、日本経済新聞社、労務行政研究所 510年1 11 21 31 4 1 5

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消費者マインド図表6消費者態度指数(季節調整済)消費者態度指数改善悪化11 12 13 1415年6(資料)内閣府消費者物価図表7(前年比、%)2010年基準12010年基準-1-2総合(除く生鮮食品・エネルギー)総合(除く生鮮食品)-307 08 09 10 11 12 13 14 15総合(除く生鮮食品)年(注) 2014/4月の消費税率引き上げについては、直接的な影響を調整(試算値)。消費者物価指数(総合除く生鮮食品・エネルギー)は、日本銀行調査統計局算出。(資料)総務省年

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価格改定の動き上昇落率図表820 (前年比、%)10050(%ポイント)(%)東大・一橋物価指数上昇・下落品目比率(消費者物価指数)1.52.0上昇品目比率-下落品目比率(左目盛)上昇品目比率(右目盛)下落品目比率(右目盛)0.51.0-0.50.0-10-15-1.0東大日次物価指数-30-20-2.01.513 14 15SRI一橋大学消費者購買指数(週次価格指数)年-50-4011 12 13 1415年(注)1. 上昇・下落品目比率は前年比上昇・下落した品目の割合。総合(除く生鮮食品)。2014/4月の消費税率引き上げについては、直接的な影響を調整(試算値)。2. 東大日次物価指数は、後方7日間平均。(資料)総務省、東大日次物価指数プロジェクト、一橋大学経済研究所経済社会リスク研究機構設備稼働率図表9-105125130 (季節調整済、2010年=100)(「過剰」-「不足」、%ポイント、逆目盛)企業の予測-5151003080製造業稼働率指数(左目盛)製造業生産・営業用設備判断DI(右目盛) 35407005 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15製造業生産・営業用設備判断D.I.(右目盛)非製造業生産・営業用設備判断D.I.(右目盛)年(注)製造業稼働率指数の2015/3Qは、7~8月の計数。(資料)経済産業省、日本銀行

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需給ギャップ図表10-204(%)(「過剰」-「不足」、%ポイント、逆目盛)企業の予測-1010-220-4需給ギプ(左目盛)30-6需給ギャップ(左目盛)短観加重平均D.I.(右目盛)(注)1. 需給ギャップは、日本銀行調査統計局の試算値。具体的な計測方法については、日銀レビュー「GDPギャップと潜在成長率の新推計」(2006年5月)参照40-800年0 10 20 30 40 50 60 70 80 91 01 11 21 31 4 1 5と潜在成長率の新推計」(2006年5月)参照。2. 短観加重平均D.I.(全産業全規模)は、生産・営業用設備判断D.I.と雇用人員判断D.I.を資本・労働分配率(1990~2013年度平均)で加重平均して算出。なお、短観の2003/12月調査には、調査の枠組み見直しによる不連続が生じている。

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(資料)内閣府、日本銀行等 10予想物価上昇率家計<消費動向調査>企業<短観(物価全般の見通し)>図表11家計<消費動向調査>企業<短観(物価全般の見通し)>2.0 (各年後の前年比、%)3.54.01年後の予想物価上昇率(加重平均、左目盛)(前年比、%)(%ポイント)1.01.51年後2.02.53.0 D.I.(右目盛)0.00.51年後3年後5年後0.00.51.01.52.5(年率平均、%)エコノミスト市場参加者<物価連動国債のBEI>14/3月6 9 12 15/3 6 93.0(%)05 06 07 08 09 10 11 12 13 1415年1.52.06~10年先(コンセンサス・フォーキャスト)2~6年度先(ESPフォーキャスト)1.02.00.51.0-30-2.0-1.00.0旧物価連動国債(10年物)旧物価連動国債(最長物)0.005 06 07 08 09 10 11 12 13 1415年(資料)内閣府、日本銀行、Consensus Economics、JCER、Bloomberg 11-4.0-3.005 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15新物価連動国債(10年物)年

§33

賃金上昇率と物価上昇率図表12時間当たり名目賃金(前年比、%)6 消費者物価指数(総合除く生鮮食品・エネルギー)-2-483年8 58 78 99 19 39 59 79 90 10 30 50 70 91 11 31 5(注)1. 時間当たり名目賃金の1990/4Qまでは、事業所規模30人以上の計数。2. 消費者物価指数(総合除く生鮮食品・エネルギー)は、日本銀行調査統計局算出。消費税調整済み(試算値)。3. 2015/3Qは、7~8月の前年同期比。(資料)厚生労働省、総務省 12中国のPMI図表13製造業非製造業(D I %ポイント)(D I %ポイント)国家統計局ベース財新/Markitベス(D.I.、%ポイント)62 (D.I.、%ポイント)58 財新/Markitベース拡大 54拡大拡大48 国家統計局ベース財新/Markitベース縮小07 08 09 10 11 12 13 14 15縮小年07 08 09 10 11 12 13 14 15縮小年(資料)CEIC、Markit (© and database right Markit Economics Ltd 2015. All rights reserved.)

§34

中国の財政図表14(兆元)財政支出地方債・開発銀行貸出(前年比寄与度 %)地方債発行額開銀貸出残高(兆元)地方政府支出中央政府支出(前年比、寄与度、%)10 開銀貸出残高30 政府支出計6 銀行借入等から地方債への借り換え分4 借り換え分(3.2兆元)09 10 11 12 13 1415年-511 12 13 1415年09 10 11 12 13 1415年(注)2015年の地方債発行額は予算案、開銀貸出残高は当局見込みベース。(資料)CEIC、財政部、国家開発銀行中国経済の構造変化図表15(%)(%)各業種の輸入誘発力業種別GDP比率60 (%)50 (%)公共投資関連業種サービス第3次産業第2次産業 5サビス業種80 85 90 95 00 05 10第1次産業年金融小売飲食宿不動産建設一般機輸送機電気機石油製宿泊産業業機械機械機器製品(注)輸入誘発力は、各業種の最終需要が1単位増加した場合の海外への付加価値配分のウエイト。2011年の値。(資料)CEIC、WIOD 15 企業の現預金保有残高図表16180 (季節調整済、兆円)00年01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15(注)金融業・保険業を除く。(資料)財務省 1600年01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15