【講演】「日本の教訓─長期予想インフレ率をめぐって─」(米国・イェール大学)
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日本銀行政策委員会審議委員佐藤健裕日本の教訓──長期予想インフレ率をめぐって──(米国・イェール大学における講演の邦訳)日本銀行 2017年3月28日 11.はじめにはじめに、伝統と実績のあるイェール大学で講演の機会を設けて頂いたStephen Roach シニア・フェローに感謝申し上げる。Roach 氏は日本のデフレの教訓を題材として、マクロ政策論の講座を担当されているとうかがっている。デフレとの闘いのフロントランナーである日本銀行のボードメンバーとして、この場での私の問題提起が、学界における活発な議論に繋がれば光栄である。四半世紀に及ぼうとする日本のデフレの処方箋については、既に多くの理論と実践、及び政策評価によりさまざまな知見が蓄積されてきている。日本銀行も昨年9月に「量的・質的金融緩和」の総括的な検証を行い、幾つかの重要な教訓を得た。本日はそれらのうち、捉えどころのない概念ではあるがデフレ脱却に決定的に重要と考えられる長期予想インフレ率の問題に焦点を絞って話したい。
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2.日本の教訓(1)長期予想インフレ率の決定要因結論から始めよう。長期予想インフレ率は中央銀行により決定されるという金融政策論の前提1は日本の経験により否定された。長期予想インフレ率を目標に向けて下げていく場合と上げていく場合とで、金融政策の効果は非対称だからである(図表 1)。日本の経験は、一旦、物価の規範(norm)である長期予想インフレ率が低下(de-anchor)すると、ゼロ金利制約の存在により中央銀行の能力が著しく制約されることを示した。この点、学界の方々には違和感があるかもしれないが、長期予想インフレ率を目標に向けて上げていく(re-anchor)場合、中央銀行がonly game in townでは限界がある。必要なのは、強力な金融緩和を進める一方
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1 例えば、FRB は"Statement on Longer-Run Goals and Monetary Policy Strategy (January24, 2012, as amended effective January 26, 2016)" において、“The inflation rate overthe longer run is primarily determined by monetary policy, and hence the Committeehas the ability to specify a longer-run goal for inflation.” と述べている。 2で、労働市場改革などの構造政策による潜在成長率(≒自然利子率)の引き上げを併せて進めていくことである2。以上は学界も真剣に考えるべき重要な教訓であるように思われる。なぜなら、潜在成長率の低下と長期予想インフレ率の低下の同時進行という抜き差しならない事態が、世界的な金融危機以降、多くの国で実際に観察されているからである(図表2)。教訓は日本だけにとどまらないのである。
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(2)低すぎる長期予想インフレ率の弊害若干敷衍しよう。より根本的な教訓は、中央銀行は長期予想インフレ率の低下を許容してはならないということである。高すぎる長期予想インフレ率を引き下げることについて、中央銀行には過去の実績に裏付けられた信認がある。インフレとの闘いは、デフレとの闘いより容易、かつ戦略は単純である。この場合、長期予想インフレ率は中央銀行の物価目標により決まる、という経済学の前提が成り立とう。しかし、低すぎるインフレ率により信認を失った中央銀行の物価目標は経済モデルの前提とはならない。日本のように潜在成長率と長期予想インフレ率の低下が同時進行すると、低すぎる長期予想インフレ率を金融政策で引き上げることができるかどうか、現在の経済学には十分な知見がない。後で触れるように、長期予想インフレ率がほぼゼロ%とみられるなか、潜在成長率(≒自然利子率)もゼロ%台、かつ通常の経済取引には名目ゼロ金利制約があるためである。実際、大規模な非伝統的金融政策でも、Friedman 的な貨幣数量説的メカニズムやNew Keynesian 的な期待のジャンプはこれまでのところ不十分にしか起こっていない。長期予想インフレ率のリアンカリングは未だ道半ばである。潜在 2日本の安倍政権の当初の「三本の矢」には、財政・金融政策の協調で構造政策を支えるという積極的な意義があると考えられる。
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3成長率と長期予想インフレ率がここまで低くなっていなければ金融政策はもっと効果的であっただろう。以下では、長期予想インフレ率を巡り、 ①形成メカニズム、② 日本の状況、③金融危機との関係、④労働市場改革との関係、について論じる。 3. 長期予想インフレ率を巡って(1)長期予想インフレ率の形成メカニズム経済学では長期予想インフレ率と潜在成長率は無関係とされる。しかし、日本の実情に照らすと私にはそうは思えない。むしろ、長期予想インフレ率と潜在成長率は大まかだが相関があると考えられる(図表 3)。日本では90年代後半の金融危機と前後して長期予想インフレ率が急低下した。需要(資産価格デフレによる負のフィナンシャル・アクセラレータ)と供給(金融仲介機能の低下、バブルによる資源配分の歪み)の相互作用により悪化した経済のファンダメンタルズが、90年代後半の金融危機により一段と悪化した(図表4)。こうしたなかで、先行き悲観論から人々の中長期的な成長期待が低下し、潜在成長率も低下した状態が長引いたことで、人々の物価観が過度に保守的となった、すなわち、長期予想インフレ率の低下に至ったとみられる。
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(2)日本の長期予想インフレ率サーベイ・ベースの長期予想インフレ率の推移をみると、90年代後半の金融危機とともに急落の後、1%程度となり、その後の世界金融危機、欧州債務危機などでも概ね 1%で粘着的となっている(図表 5)。しかし、このサーベイ結果についてはやや疑問である3。私見では、以下の理由から、実はゼロ%程度に低下しているとみる方が説得的と考える4。 3 市場ベースの長期予想インフレ率(例えば5年先5年のインフレ・スワップ・レート)は、市場の流動性、厚みなどの点でさらに信頼性に劣るため、あまり参考にならない。4 この点について補足すると、サーベイ対象のエコノミストの多くが5-10年先まで見渡してもゼロ%程度のインフレが続くと考えているとは直観的には思えない一方、エコノミス
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4第一に、ミクロの価格改定頻度をみると、前年比ゼロ%に品目が集中した状態が長く続いてきたため(=最頻値がゼロ)、人々がゼロインフレを定常状態と考えている可能性があること。米国の状況と対比するとわかりやすいであろう(図表6)5。第二に、公共料金が過度に粘着的であること6(図表 7)7。例えば、東京の地下鉄初乗り運賃は、消費税の影響を除けば、1995年以降、20年以上据え置かれている。第三に、労使間の賃金交渉において賃金改定率が長年ゼロ%で、ベア復活後も1%にも満たないこと8(図表 8)。第四に、1%の長期予想インフレ率を前提に日本のデフレ均衡を理論的に説明できないこと(図表 9)。第四点について補足すると、名目金利ゼロ制約のもとでも長期予想インフレ率が有意にプラスであれば、実質金利をマイナスにすることでゼロ% 近傍の自然利子率を下回る実質金利を実現できる。したがって、金融政策は有効で、デフレ均衡を脱出できる筈である。長期予想インフレ率がせめて 1%程度あれば、金融政策の有効性はもっと高かったのではないだろうか。
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トの物価観と家計・企業のそれに乖離がある、すなわち、家計・企業の長期予想インフレ率がエコノミストのそれを下回っている可能性はあると考えられる。5 渡辺努・渡辺広太、「デフレ期における価格の硬直化:原因と含意」、日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、No.16-J-2、2016年2月6 実体としては、長期の経済低迷を背景に、公共料金の上昇に対する抵抗感が政治的に強まるもとで、公共料金のコスト上昇を財政赤字で補てんするメカニズムが強固に構築されていったという面がある。ただし、そうしたプロセス自体が物価の規範(norm)である長期予想インフレ率の低下を示していると考えられる。7 新谷幸平・倉知善行・西岡慎一、「わが国の公共料金の特徴~制度面における欧米との比較を中心に~」、日銀レビュー、2016-J-12、2016年7月8 一方、安倍政権下でベアが復活したこと自体は、長期予想インフレ率がゼロから幾分上離れし始めた証拠である可能性もある。
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5(3)金融危機と長期予想インフレ率90年代後半の金融危機を潤沢な流動性供給と資本注入により早期に収拾していれば、大規模なクレジット・クランチは避けられ、その後の日本経済のパスは違っていたかもしれない。広く共有されたこの教訓は、その後の世界金融危機の際に生かされた。民間の信用力(solvency)の問題に対しては、圧倒的な流動性供給とともに、迅速な資本注入による信用補完が重要である。日本では、税金で金融機関を救済することへの世論の強い反発により、まず、金融機関への公的資金注入に多大な時間を要した。危機後、数次にわたり公的資金注入を実施し、信用不安を沈静化するのに実に数年を要した(図表 10)。日本銀行が潤沢な資金供給により流動性不安の払拭に成功したのも、99年のゼロ金利政策、さらには 2001年の量的緩和以降であった(図表 11)9。所要準備を上回る潤沢な資金供給により市場金利をほぼゼロ%に低下させ、併せてフォワード・ガイダンスを導入することで政策の予見性を高める先駆的な試みではあった。しかし、90年代後半の流動性不安に対し、もっと早い段階で手を打てたのではないかという思いはある。その点では、当時、日本銀行の金融緩和が不十分であったから危機が長引き、デフレの罠に陥ったとの根強い批判について、シンパシーを感じる部分はある10。
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また、日本銀行は、資産価格デフレによる実体経済への負のフィードバックループに重大な関心を払ったのに対し、マイルドなデフレについては長期間関心を払わなかった。実際、日本銀行は、デフレはマイルドで、1930年代の大恐慌のようなデフレ・スパイラルではないと繰り返し説明していた11。
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990年代の危機に際し、日本銀行はB/S を拡張し、短期市場への資金供給を積極化するとともに、売出手形により余剰資金を吸収した(両建てオペ)。ただし、超過準備を供給し、市場金利のゼロ%への低下を許容したわけではなかった。そもそも、当時は量的緩和という概念さえなかった。10 一方で、危機以前の行き過ぎた緩和が大規模なバブルの源泉となったことも重要な教訓である。米国でも、IT バブル崩壊後の大規模緩和とその後のメジャードペースのゆっくりとした引き締めが、世界的金融危機に至る住宅バブルの源泉となった。11日本銀行、「「物価の安定」についての考え方」、2006年3月 6確かに、若干遅きに失したものの、潤沢な資金供給と資本注入によりデフレ・スパイラルは回避できた。しかし、その間進んだ長期予想インフレ率の低下が金融政策にどういう影響を及ぼすか、日本銀行はもとより学界などにもあまり問題意識がなかったようだ。後知恵だが、金融危機後の FRB、債務危機後のECBのように長期予想インフレ率の低下だけは絶対に許容しない姿勢を明確にしておくべきであっただろう。
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(4)労働市場と長期予想インフレ率一旦下がった長期予想インフレ率を引き上げる方策について、私見では構造政策、なかんずく労働市場改革が重要と思う。長期予想インフレ率と潜在成長率の低下になんらかの関係があるとすれば、前者の引き上げと後者の引き上げに同時に取り組むことが重要である。その主要な手段の一つは労働市場改革である。改革により労働生産性や労働参加率が向上すれば、やや長い目でみて潜在成長率が上昇し、企業の期待収益率や家計の恒常所得も増加する。これにより、金融緩和効果が強まって、物価は上昇し、日本特有のバックワード・ルッキングな期待形成プロセスから長期予想インフレ率にも好影響が及ぶと考えられるからである。そのうえで、以下の日本の労働市場慣行が、長期予想インフレ率を上げにくくしている要因と考えられるため、積極的に改めていく必要があると考える。人口減少により人手不足感が高まっている今が改革を進めるチャンスである。 第一は、日本の労働市場により柔軟な調整メカニズムを導入する必要性である。この点を敷衍すると、不況期に数量調整(雇用)・価格調整(賃金)どちらによるかが、人々の予想形成に影響している可能性がある。例えば、米国の労働市場ではレイオフという形で主に数量調整メカニズムが働く。一方、日本では主に価格調整で、レイオフは避けられる傾向がある(図表 12)。
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7日本の賃金調整について補足すると、石油ショックなど、過去に起こったさまざまなショックに対し、労働組合は正社員の雇用確保を優先し、経営陣に対し賃金面での処遇の悪化を受け容れてきた歴史がある。こうした労使協調のもとでの正社員の賃上げ抑制はインフレ抑制には効果的であった。そして、正社員の基本給が危機以降大きく下方シフトし、それ以上下がりにくくなり粘着的となった後は、労働組合の保護の枠外にある非正規社員が調整のバッファーとなっている。このような正社員の雇用優先、かつ賃金抑制的な日本型の雇用・賃金慣行は、長期予想インフレ率を引き下げる方向で影響を及ぼしてきた可能性がある。とすれば、その解決策は米国型のダイナミックな雇用慣行を取り入れ、リスクプレミアムを正社員の処遇に反映することであろう。ただし、雇用市場の流動性やセイフティネットが必ずしも十分とはいえないなかで、米国型の雇用形態が社会的に受容されるとは考えにくい。実際、労使間のコンセンサス形成は困難で改革の歩みは緩やかである。労働市場改革の成功の秘訣は、米国型のダイナミックな雇用慣行を日本の実情に合わせ修正しながら導入していくことであろう。例えば、政労使の連携による就労・再就職支援の枠組み構築など、成長に繋がるセイフティネット構築により労働組合側の理解を得る工夫が重要である。
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第二は、フォワード・ルッキングな賃金交渉方式を確立する必要性である。この点を敷衍すると、日本の賃金交渉では、前年の消費者物価指数の実績値をベンチマークに毎年、翌年の賃金上昇率が決まる。このため原油価格下落などの外部要因で消費者物価が下落する場合でも、マクロの交易条件改善から企業収益にプラス材料であるにもかかわらず、低い物価上昇率が参照される傾向がある(図表 13)12。
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12 この点については、「「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証」の補論4で、計量的な分析を行っている。 8交渉過程において過去の消費者物価の実績値を参照し、(バックワード・ルッキングに)単年度の賃金上昇率を交渉する現在の慣行に代わり、先行き数年間、あるいはより中長期的な物価のパスの認識を労使間でシェアしたうえで、(フォワード・ルッキングに)複数年度の賃金上昇率を交渉する慣行とすることが必要である13。第三は、大企業・製造業と横並びの労使交渉の慣行を改める必要性である。日本では大企業・製造業、とりわけ自動車・鉄鋼といった主要製造業の賃金交渉結果が、非製造業も含めたベンチマークとなる傾向がある。このため、円高でマクロの交易条件が改善しても、主要製造業の利益が減少し賃上げ率が圧縮されると、非製造業の賃上げ率も横並びで圧縮される傾向がある。総産出額に占める製造業のウェイトが2割未満となるなか、主要製造業をベンチマークとすることは時代にそぐわない。賃上げはフォワード・ルッキングな物価予想をベースとしつつ、個々の企業業績を反映すべきであろう。
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4. 付論:財政政策を巡る最近の話題非伝統的金融政策でも期待のジャンプが不十分であったことから、日本では、最近、財政政策の役割に再び注目が集まっている。「ヘリコプター・マネー」や「物価水準の財政理論」(FTPL)はその一例である(図表 14)。両者に共通する問題は、歳出拡大が人々の期待形成に持続的にプラスに作用するかどうかであろう。家計はリカードの中立命題が想定するほど合理的でない一方、将来不安の一因は増税や社会保険料負担の増大懸念であるとの見方も説得的に思える。ここから、将来の増税を伴わない恒久的な財政拡大が望ましいとの発想が生まれたと考えられる。 13 フォワード・ルッキングな賃金交渉の重要性については政府も認識している。安倍首相は「働き方改革実現会議」において、経済界に対し「期待物価上昇率も勘案した賃上げ」を要請している。
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9しかし、仮に財政拡張によりインフレが起こることで政府債務が事後的にファイナンスされるとしても、これらの理論モデルに対して、実証的な研究蓄積はまだ不十分である。このため、現実の政策策定や、そのためのマクロ経済予測には使えない。経済政策はさまざまな経済主体の利害得失を超える重い判断で実施されるが、インフレはいつか必ず起こる、しかしいつ起こるかはわからない、という経済モデルでステークホルダーを説得することは困難だからである。マクロ政策が法律上、会計上、実務上ひいては議会の同意の必要性というさまざまな制約のもとで運営され、政策当局がそうした制約を強く意識せざるを得ない以上、現実の政策運営はプルーデントなものにならざるを得ない。
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5. 結び「量的・質的金融緩和」実施以来4年間の経験から、一旦低下した長期予想インフレ率を引き上げることは、大規模な非伝統的金融政策でも容易でないことがわかった。金融政策単独での効果に限界があるからには、先に論じた労働市場改革などを通じ、人々に染みついた保守的な物価予想を地道に変えていくこと、とりわけ賃金の決定メカニズムの変革が重要と考える。こうした賃金の決定過程においては、中央銀行の物価目標が中長期的な物価のパスの考え方のベースとなることが望ましい。もっとも、そのためには中央銀行の物価目標が人々に十分に信認されなければならない。信認されるためには、金融政策で物価を動かせるという実績が必要である。信認を取り戻すのは容易ではないが、金融政策で何ができるかを常に考えながら、我々は今後もデフレとの闘いのフロントランナーとして挑戦し続ける。 ご清聴、感謝申し上げる。 以上
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10【参考文献】Board of Governors of the Federal Reserve System. "Statement on Longer-Run Goalsand Monetary Policy Strategy." January 2016.Bullard, James. "Seven Faces of 'The Peril'." Federal Reserve Bank of St. LouisReview 92, no.5 (September/October 2010): 339-52.Watanabe, Kota, and Tsutomu Watanabe. "Price Rigidity at Near-Zero InflationRates: Evidence from Japan." CARF Working Paper Series, March 2017.遠藤祐司・小田剛正・黒住卓司・渡邉賢一郎、「「金融政策:効果と実践」 ─2015年国際コンファランスの模様─」、『金融研究』第34 巻第4 号、2015年10月翁邦雄・白川方明・白塚重典、「資産価格バブルと金融政策:1980年代後半の日本の経験とその教訓」、『金融研究』第19 巻第 4 号、2000年12月翁邦雄・白塚重典、「資産価格バブル、物価の安定と金融政策:日本の経験」、『金融研究』第21 巻第1 号、2002年3月翁邦雄・白塚重典、「資産価格変動、構造調整と持続的経済成長:わが国の1980年代後半以降の経験」、『金融研究』第23 巻第 4 号、2004年12月白川方明、「金融政策は構造政策まで代替できない」、『週刊ダイヤモンド』、2000年1月29日号新谷幸平・倉知善行・西岡慎一、「わが国の公共料金の特徴~制度面における欧米との比較を中心に~」、日銀レビュー、2016-J-12、2016年7月中曽宏、「The Conquest of Japanese Deflation: Interim Reports」、2014年6月日本銀行、「「物価の安定」についての考え方」、2006年3月日本銀行、「「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証」、2016年9月日本銀行調査統計局、「東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局第 6回共催コンファレンス:「物価変動とその中での経済主体の行動変化」の模様、調査論文、2016年1月福井俊彦、「金融政策運営の新たな枠組み ─物価安定のもとでの持続的成長の実現に向けて─」、2006年3月
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11山口泰、「金融政策と構造政策:日本の経験」、『日本銀行調査月報』、1999年11月号山田久、「デフレ期賃金下落の原因と持続的賃上げの条件」、日本労働研究雑誌2016年特別号(No.667) 、2016年1月渡辺努・渡辺広太、「デフレ期における価格の硬直化:原因と含意」、日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、No.16-J-2、2016年2月 日本の教訓2017年3月28日日本銀行佐藤健裕──長期予想インフレ率をめぐって──(米国・イェール大学における講演)本日の講演内容11.はじめに2.日本の教訓(1)長期予想インフレ率の決定要因(2)低すぎる長期予想インフレ率の弊害3. 長期予想インフレ率を巡って(1)長期予想インフレ率の形成メカニズム(2)日本の長期予想インフレ率(3)金融危機と長期予想インフレ率(4)労働市場と長期予想インフレ率4. 付論:財政政策を巡る最近の話題5. 結び
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Board of Governors of the Federal Reserve SystemAdopted effective January 24, 2012; as amended effective January 26, 20162• The inflation rate over the longer run isprimarily determined by monetary policy, andhence the Committee has the ability tospecify a longer-run goal for inflation.Statement on Longer-Run Goalsand Monetary Policy Strategy図表1各国の潜在成長率と予想インフレ率3図表2②予想インフレ率①潜在成長率(注)予想インフレ率について、日本はコンセンサス・フォーキャストにおけるCPIの6~10年先予測、米国・ユーロ圏は5年先5年のインフレスワップレート。
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(資料)OECD、Bloomberg、Consensus Economics「コンセンサス・フォーキャスト」0.00.51.01.52.02.5050607080910111213141516日本米国ユーロ圏(%)年0.00.51.01.52.02.53.03.54.005060708091011121314151617日本米国ユーロ圏(%)年
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本日の講演内容41.はじめに2.日本の教訓(1)長期予想インフレ率の決定要因(2)低すぎる長期予想インフレ率の弊害3. 長期予想インフレ率を巡って(1)長期予想インフレ率の形成メカニズム(2)日本の長期予想インフレ率(3)金融危機と長期予想インフレ率(4)労働市場と長期予想インフレ率4. 付論:財政政策を巡る最近の話題5. 結び▲ 2▲ 10123450.00.51.01.52.02.53.090919293949596979899000102030405060708091011121314151617予想インフレ率(左軸)潜在成長率(右軸)(%)年(%)5(注1)予想インフレ率は、コンセンサス・フォーキャストにおけるCPIの6~10年先予測。(注2)潜在成長率の計数には、東日本大震災があった2011年のデータを含めていない。(資料)内閣府、Consensus Economics「コンセンサス・フォーキャスト」日本の予想インフレ率と潜在成長率図表3
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6(注)CPI(総合除く生鮮食品)は、ARIMAモデル(012)(011)および消費税導入(1989年4月)および引上げ(1997年4月、2014年4月)時にレベルシフト調整を適用して、X-12-ARIMAによって計算。(資料)翁邦雄・白塚重典、「資産価格変動、構造調整と持続的経済成長:わが国の1980年代後半以降の経験」、『金融研究』第23巻第4号、2004年12月、日本銀行、総務省、日本不動産研究所日本の資産価格デフレ図表4▲2.0▲1.8▲1.6▲1.4▲1.2▲1.0▲0.8▲0.6▲0.4▲0.20.00.289909192939495969798990001020304050607080910111213141516地価株価CPI(総合除く生鮮食品)(1989/4Q=0、対数値)年7(注)コンセンサス・フォーキャストは、コンセンサス・フォーキャストにおけるCPIの6~10年先予測。(資料)Bloomberg、Consensus Economics「コンセンサス・フォーキャスト」日本の予想インフレ率図表5▲1.0▲0.50.00.51.01.52.02.53.090919293949596979899000102030405060708091011121314151617コンセンサス・フォーキャスト 5年先5年インフレ・スワップ・レート(%)年
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品目別価格上昇率の頻度分布8図表6②日本と米国との比較(2014年3月時点)①日本のQQE導入以降の変化(資料)渡辺努・渡辺広太、「デフレ期における価格の硬直化:原因と含意」、日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、No.16-J-2、2016年2月、総務省0510152025303540-11-10-9 -8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -101234567891011日本米国(%)(個別品目の価格上昇率、前年比、%)051015202530- 11 - 10 - 9 - 8 - 7 - 6 - 5 - 4 - 3 - 2 - 101234567891011(%)2012年12月2016年12月(個別品目の価格上昇率、前年比、%)9(注)日本は、消費者物価指数の「公共サービス」と「電気・都市ガス・水道」を集計。欧州は、Harmonized Index of Consumer Prices(HICP)におけるAdministered Price で、EU 加盟国のうち、OECD 加盟国の加重平均値。
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(資料)新谷幸平・倉知善行・西岡慎一、「わが国の公共料金の特徴~制度面における欧米との比較を中心に~」、日銀レビュー、2016-J-12、2016年7月、総務省、BLS、Eurostat公共料金の国際比較図表70.91.01.11.21.31.41.51.61.71.81.900010203040506070809101112131415日本欧州米国(2000年=1)年
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10(資料)中央労働委員会、日本労働組合総連合会、総務省、BLS、CBO、ドイツ連邦統計局、ドイツ連邦銀行各国のベースアップ率図表8▲1012345695969798990001020304050607080910111213141516日本(ベア)米国(組合員・雇用コスト指数)ドイツ(協約賃金)(前年比、%)年11(注)各点は名目金利とコアCPIインフレ率の実績。コアCPIインフレ率は総合(除く食料・エネルギー)。日本については消費税率引上げの影響を除く。(資料) Bullard, James. "Seven Faces of 'The Peril.'" Federal Reserve Bank of St. Louis Review 92, no. 5 (September/October 2010): 339-52インフレ均衡とデフレ均衡図表9-2-10123456-2 -101234米国ユーロ圏日本名目金利 (%)コアCPIインフレ率 (%)デフレ均衡インフレ均衡非線形な政策反応関数フィッシャー式i = r + π(r = 0.5%の場合)日本2017/1 ユーロ圏2017/1米国2017/1
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12(注)TOPIX銀行業株価指数の推移。(資料)Bloomberg日本の金融危機前後の銀行株価の推移図表1002004006008001000120014001600899091929394959697989900010203040506年97/11月三洋証券、拓銀、山一證券、徳陽シティ破綻98/3月公的資金注入(21行、1.8兆円)99/3月公的資金注入(15行、7.5兆円)98/10月長銀特別公的管理開始決定03/5月りそな銀への公的資金注入決定01/3月量的緩和政策導入99/2月ゼロ金利政策導入00/8月ゼロ金利政策解除13(資料)日本銀行日本の金融危機前後の日本銀行のバランスシート図表11-1▲200▲150▲100▲50050100150200現金長期国債(兆円)当座預金その他負債・純資産短期資金供給オペLLR貸出等短期国債その他資産負債・純資産売出手形・売現先
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▲0.2▲0.10.00.10.20.30.40.50.605010015020025030035096979899000102030405060708091011121314151617当座預金残高(左軸)無担O/Nコールレート(右軸)政策金利(右軸)(兆円)年(%)14(注)政策金利について、2010年10月以前のデータは無担O/Nコールレートの誘導水準、2010年10月から2016年1月までは超過準備への付利金利、2016年1月以降は政策金利残高への付利金利。(資料)日本銀行当座預金残高とコールレート図表11-2フィリップス曲線:日本と米国15(注1)賃金は時間当たり賃金。日本は「現金給与総額÷総実労働時間(事業所規模30人以上)」、米国は“Average hourl y earnings of production andnonsupervisory employees: total private”。(注2)インフレ率は、日本はCPI(総合除く生鮮食品)、米国は“PCE excluding food and energy”。(注3)日本のインフレ率は消費税率引上げの影響を調整している。
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(資料)厚生労働省、総務省、BEA、BLS、Bloomberg①インフレ率と失業率 ②賃金上昇率と失業率図表12▲6▲4▲202468024681012日本失業率(%)米国賃金上昇率(前年比、%)▲3▲2▲1012345024681012日本失業率(%)米国インフレ率(前年比、%)
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16(注)CPI(総合除く生鮮食品)は消費税の影響の調整は行っていない。(資料)中央労働委員会、日本労働組合総連合会、総務省ベースアップ率と物価図表13▲3▲2▲10123495969798990001020304050607080910111213141516ベア CPI(総合除く生鮮食品)(前年比、%)年本日の講演内容171.はじめに2.日本の教訓(1)長期予想インフレ率の決定要因(2)低すぎる長期予想インフレ率の弊害3. 長期予想インフレ率を巡って(1)長期予想インフレ率の形成メカニズム(2)日本の長期予想インフレ率(3)金融危機と長期予想インフレ率(4)労働市場と長期予想インフレ率4. 付論:財政政策を巡る最近の話題5. 結び 18• ヘリコプター・マネー• FTPL(Fiscal Theory of the Price Level)財政政策を巡る最近の話題図表14本日の講演内容191.はじめに2.日本の教訓(1)長期予想インフレ率の決定要因(2)低すぎる長期予想インフレ率の弊害3. 長期予想インフレ率を巡って(1)長期予想インフレ率の形成メカニズム(2)日本の長期予想インフレ率(3)金融危機と長期予想インフレ率(4)労働市場と長期予想インフレ率4. 付論:財政政策を巡る最近の話題5. 結び