【挨拶】「最近の金融経済情勢と金融政策運営」(広島県金融経済懇談会)
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2021年9月1日 日本銀行 日本銀行副総裁若田部昌澄最近の金融経済情勢と金融政策運営 ── 広島県金融経済懇談会における挨拶 ── 1
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1.はじめにおはようございます。日本銀行の若田部です。本日は、広島県の行政および経済・金融界を代表する皆様方とお話する機会を賜り、誠にありがとうございます。新型コロナウイルス感染症の影響が続く中、オンラインでの開催となりましたことを大変残念に感じております。はじめに、8月の豪雨で被災された方々には、心よりお見舞いを申し上げます。また、皆様には、日頃より広島支店の業務運営に多大なご協力を頂いており、厚くお礼申し上げます。本日9月1日は、折しも、1905(明治 38)年に日本銀行広島出張所を開設した日に当たります。そうした節目の日に会合の機会を頂けたのは誠に光栄です。節目といえば、今年は米国の経済学者 F.H.ナイトの『リスク、不確実性、利潤』と、英国の経済学者 J.M.ケインズの『確率論』が刊行されてから 100周年に当たります1。どちらも、通常の統計学的確率で捉えられるリスクと、確率論では捉えられない根源的な不確実性、いわば先行きが分からない状態を区別し、経済社会における後者の重要性を強調しました。感染症とそれが経済に及ぼす影響には、この意味での不確実性が依然として残っていると考えられます。今回のご挨拶では、不確実性をキーワードに、まずわが国経済の現状と展望を概観したのち、中央銀行の今日的課題として、気候変動対応への中央銀行の取り組み等についての考え方をご説明します。
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最後に、広島県経済の現状と展望をお話致します。
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1 Knight, F. H., 1921, Risk, Uncertainty and Profit, Boston and New York: Houghton Mifflin(桂木隆夫・佐藤方宣・太子堂正称訳『リスク、不確実性、利潤』筑摩書房、2021年)。Keynes,J. M., 1921, A Treatise on Probability, London: Macmillan(佐藤隆三訳『ケインズ全集第 8 巻確率論』東洋経済新報社、2010年)。二つの著作について、現代での意義も含めて議論したものとしては以下を参照して下さい。Dimand, R. W., 2021, "Keynes, Knight, andFundamental Uncertainty: A Double Centenary 1921-2021," Review of Political Economy, 33(4), pp.570-584. 2
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2.経済の現状と展望(1)経済情勢と回復メカニズム最初に、経済情勢についてお話します。まず、昨年来、内外経済は、感染症の影響等からきわめて大きな変動を経験しており、各種経済指標の解釈には従来以上に注意を要します2。そのことを念頭においてわが国の経済の現状をみると、感染症による下押し圧力から、家計部門を中心に引き続き厳しい状態にあります(図表1)。物価変動の影響を除いた実質ベースの国内総生産(GDP)は、本年1~3月に個人消費の減少を主因にマイナス成長となったあと、4~6月もほぼ横ばい圏内にとどまり、依然として感染症拡大前の水準を下回っています。もっとも、経済全体としては、海外経済の堅調な回復を背景とした企業部門の前向きな動きに支えられて、持ち直し基調は維持されていると判断しています。先行きは、ワクチン接種の進捗などに伴い、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、前向きな動きが企業部門から家計部門へと拡がり、経済の回復は明確になっていくと考えています。こうした見通しが実現するために重要なのは、前向きな循環メカニズムがしっかりと働くかどうかです。すなわち、内外需要の増加が企業や家計の所得の拡大につながり、それがさらなる支出の増加を促すかどうかです(図表2)。
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振り返りますと、かつてのデフレ期には、消費や投資スタンスの後退による支出の先送りが所得の減少をもたらし、それがさらなる支出の減少につながるという悪循環が続きました。そうした悪循環には2013年の「量的・質的金融緩和」の導入によって終止符が打たれ、その後は、所得と支出の間で好循環が働く中で、曲がりなりにもデフレではない状況が実現してきました。もっとも、昨年春以降は、感染症という新しいショックが経済活動の強い下
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2 具体的には、①前年の経済活動や物価水準が大きく低下した反動から、今年の経済成長率や物価上昇率が計算上高くなること(ベース効果)や、②相対的に低賃金の労働者が失業することで、平均的な賃金が見かけ上上昇すること(構成効果)などには留意が必要です。こうした現象は、例えば次の講演にあるように、他国でも指摘されています。Bailey,A., 2021,"It's a Recovery, but Not as We Know It," speech given at the Mansion House, July 1,https://www.bankofengland.co.uk/speech/2021/july/andrew-bailey-speech-at-the-mansion-house-financial-professional-services-event. 3
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押し要因となる中で、経済の好循環はいったん足踏みしました。以下では、企業部門、家計部門それぞれについて、所得と支出の現状を確認したあと、先行きの見通しの考え方をご説明します。(2)企業部門と家計部門の現状まず、企業部門です(図表3)。企業の所得である収益は、対面型サービス業など一部に弱さがみられるものの、全体として改善しています。実際、『法人企業統計調査』でみた全規模全産業ベースの経常利益は、本年1~3月には既に感染症拡大前の水準を上回っています。この背景には、世界経済が不均一性を伴いながらも総じて回復する中で、わが国の輸出と生産が着実に増加していることが指摘できます。ワクチン接種が進む米欧では、公衆衛生上の措置が段階的に解除されるもとで、これまで抑制されてきたサービス消費を含めて、経済活動の回復が鮮明になってきています。米欧経済の回復は、先行して回復した中国経済とともに、貿易を介して、世界経済全体にプラスの影響を及ぼしています。そうしたもとで、企業の支出である設備投資は、製造業の機械投資が牽引役となり持ち直しています。日本銀行の短観における企業の事業計画をみても、本年度は、設備投資のしっかりとした増加が計画されています。このように、企業部門では、海外経済の回復を背景とする外需の増加を起点に、収益から設備投資への前向きの循環が再び働き始めています。続いて、家計部門です(図表4)。
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雇用・所得環境は、政策による下支えもあって大幅な悪化は回避されていますが、弱い動きが続いています。就業者数は、感染症の影響から対面型サービス部門の非正規雇用を中心に減少したあと、足もとまで低めの水準が続いています。失業率も、このところ3%程度と、感染症拡大前に比べ高めの水準で推移しています。休業者を考慮した失業率は6%、さらに潜在労働力人口を考慮した失業率(未活用労働指標4)は7.3%に上っております3。一方、賃金をみるときには、統計の性質に注意
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3 これらの失業率の違いについては、以下を参照して下さい。総務省統計局『労働力調査(詳細集計)』。 4
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が必要です。『毎月勤労統計調査』での賃金は、平均賃金なので雇用形態の構成が変化する影響を受けます。「量的・質的金融緩和」の開始以降、実質賃金が上がっていない、という意見がありますが、実態を正確に理解するには構成効果を考慮する必要があります。例えば、景気が回復すると、これまで雇用されていなかった賃金水準の低い新規労働者が雇用されますので、平均賃金には切り下げる力が働きます4。そのため、景気回復局面でも一人当たり名目賃金は、見かけ上伸び悩みましたが、足もとでは、前年の落ち込みの反動や、賃金水準の低いパート労働者の比率の低下に加え、人手不足感の強い医療・福祉業などでの賃上げの動きもあって、前年比プラスとなっています。もっとも、雇用形態の構成変化の影響が小さい一般労働者の所定内給与をみても、足もとでは前年比のプラス幅が拡大しています。この結果、雇用者数と賃金を掛け合わせた雇用者所得は、足もとでは持ち直しに転じています(図表5)。こうした中にあって、個人消費は、感染症の影響による下押し圧力が強く、足踏み状態となっています。とくに、飲食や宿泊などが含まれるサービス消費は、感染再拡大とそれに伴う公衆衛生上の措置の影響が長引く中で、感染症の拡大前を大きく下回る水準での推移が続いています。
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このように、家計部門では、依然として感染症に伴う不確実性が消費活動の強い制約となっており、所得から支出への前向きの循環が観察されるには至っていません。(3)先行きを見通すうえで重要な二つの「待機資金」と「予想」先行きを展望しますと、まず、ワクチン接種の一段の進捗などにより、感染症にまつわる不確実性が経済活動を制約する度合いが低下し、個人消費が低迷を脱することが何よりも重要です。このところ世界的に変異株による感
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4 より正確には、実質賃金を計算するには、①雇用形態の変化と、②労働時間の変化を考慮しなければなりません。『賃金構造基本統計調査』は、正規社員と、非正規社員やパートなどの短時間労働者を区別しています。これによって、一人当たりの実質賃金により近いと考えられる実質時給を計算すると、「雇用期間の定めがない正規社員」の実質賃金は、2012年から2019年にかけて4.5%上昇し、「短時間労働者のうちの非正規社員」の実質賃金は同期間中に8%上昇したことが分かります(岩田規久男『「日本型格差社会」からの脱却』光文社新書、2021年、192-193 頁)。ただし、この統計は年一回しか公表されないため、賃金動向をリアルタイムで追跡するには頻度が低いという欠点があります。 5
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染者数の増加が続いており内外経済の動向は予断を許しませんが、感染症の影響が収束に向かえば、前向きの循環が、企業部門だけでなく家計部門へも拡がっていくことが期待されます。そのうえで、さらに経済全体の回復が力強さを増していくためには、家計部門、企業部門それぞれで「待機」している資金の動向がきわめて重要なカギを握ると考えています。(二つの「待機資金」)まず、家計部門の待機資金についてです(図表6)。感染症の拡大以降、家計部門では、外出の制限などから本来の消費機会が失われたことや将来の不確実性により貯蓄が増加する中で、経済対策による給付金の支給も加わり、手元資金が大きく積み上がっています5。先行きは、感染症の制約が和らぎ不確実性も低下していくもとで、これまで抑制されてきた対面型サービスを中心にペントアップ需要が顕在化し、個人消費も回復すると予想しています。人々は感染症下で長らく外食や旅行を制限されてきた訳ですから、その反動であるペントアップ需要も、相応の規模に達することが期待されます。その過程では、家計部門に積み上がった待機資金の存在も下支え要因になると考えられます。企業部門でも、家計部門ほど顕著ではありませんが、このところ待機資金が積み上がっています。わが国企業は、デフレ期以降、企業収益との対比で設備投資を抑制する傾向がみられ、貯蓄が投資をはっきりと上回る状態が長らく続いてきました。
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こうした企業部門における貯蓄超過傾向は、「量的・質的金融緩和」の導入以降、和らいでいましたが、感染症の拡大以降、資金繰り面を含む先行き不確実性の高まりもあって、再び貯蓄の超過傾向が強まり、手元資金は積み上がっています。感染症の影響が和らぎ不確実性が低下する中で、こうした待機資金の取り崩しが、設備投資の増加を後押ししていくかどうかに注目しています。
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5 家計の待機資金に関しては、『経済・物価情勢の展望』(2021年4月)のBOX3「ワクチンの普及と個人消費の先行きについての考え方」(https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2104b.pdf)も参照して下さい。 6
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(二つの「予想」)以上のように、待機資金が実際の支出に向かい、支出性向が高まるためには、企業や家計が将来の経済や物価について明るい予想を持つことが重要です(図表7)。この点、アンケート調査をみますと、企業の成長期待は、感染症という経済への大きな負のショックを経験した後も、はっきりと低下しているようには窺われません6。こうした今次局面における成長期待の底堅さは、成長期待が大きく切り下がった金融危機時とは、明らかに異なる特徴です。これには、今回のパンデミックという世界的危機に際して、各国の政府・中央銀行が、わが国も含めて、きわめて迅速かつ前例のない規模で、財政・金融両面の政策対応を実施したことが大きく影響していると考えています(図表8)。実際、機動的な政策対応により、企業や家計への資金の流れは確保され、企業における事業や雇用の継続は強力に下支えされました。成長期待と並んで、インフレ予想の動向もきわめて重要です(前掲図表7)。仮に、家計や企業が将来の物価は下落すると予想しますと、消費や投資を先送りするインセンティブが強まり、所得から支出への前向きな循環が働かなくなります。この点、各種のインフレ予想の指標をみますと、感染症の拡大後、原油価格の大幅下落の影響もあっていったん弱含みましたが、現在はそうした局面を脱し、横ばい圏内で推移しています。
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一部には、最近の国際商品市況の上昇の影響もあって、持ち直しを示す指標もみられます。もっとも、2%の「物価安定の目標」を実現するには、企業や家計の成長期待やインフレ予想のさらなる回復が必要です。それが経済全体の前向きな循環の強まりにつながっていくか、丹念に点検していきたいと考えています。(4)物価動向経済情勢の最後に、物価動向について一言触れておきます(図表9)。先月、消費者物価について、5年に一度の基準改定が行われ、本年春以降の前年比
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6 ただし、中堅・中小企業については、今後3年間についての実質経済成長率見通しが0.7%と、前年度の0.8%からわずかながら下がっていることには留意が必要です。 7 が約▲0.7%ポイント下方に修正されました。これは、携帯電話通信料の引き下げの影響がより大きく現れたことが主な理由です7。物価の「実勢」を捉えるためには、携帯電話料金の変更やエネルギー価格の大きな変動といった一時的要因を取り除いてみることが適当です。それによると、消費者物価は基準改定後も小幅なプラスで推移していることが分かります。これも冒頭に述べた経済指標の解釈の難しさの一例になりますが、物価指標の動きの背後にある要因も含め、関連データを注意深くみていく必要があります。 3.中央銀行の今日的課題(1)気候変動問題への対応中央銀行を巡る状況は、変化を続けています。7月に、日本銀行は、気候変動に関する取り組み方針を決定しました(図表 10)8。ここで、その背景となる考え方を私なりに説明致します。近年、気候変動問題への関心が増しています9。世界の中央銀行も、金融規制監督官庁とともに、2017年12月から「気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS10)」という団体を結成しており、日本銀行も 2019年11月から参加しています。また、イングランド銀行(BOE)、欧州中央銀行(ECB)といった中央銀行は、気候
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7 基準改定に伴い、消費者物価(総合除く生鮮食品)の前年比は、本年1~3月が▲0.4%から▲0.5%、4~6月が+0.1%から▲0.6%へと、それぞれ下方修正されました。携帯電話通信料の本年4~6月の前年比寄与度は、同品目のウエイトの上昇や指数水準のリセット、指数算出方法の見直しを反映して、約▲0.5%ポイントから約▲1.1%ポイントへと拡大しました。8日本銀行の気候変動に関する取り組みについては、以下を参照して下さい。https://www.boj.or.jp/about/climate/index.htm/.9 国連開発計画(UNDP)と英国オックスフォード大学が世界50 か国、122 万人を対象に行った"Peoples' Climate V ote"によれば、回答者の64%が気候変動をグローバルな緊急事態と見なしています。ただし、そう答える人々の割合は小島嶼開発途上国(74%)、高所得国(72%)で高く、中所得国(62%)、最貧国(58%)で低くなります。日本は79%で、英国、イタリアの81%に次ぎます。https://www.undp.org/publications/peoples-climate-vote.10 Network of Central Banks and Supervisors for Greening the Financial System。
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NGFSについては、以下を参照して下さい。https://www.ngfs.net/en.
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8 変動問題への政策的対応に取り組み始めました11。そもそも気候変動問題は、グローバルな市場の失敗と考えることができます。経済活動に伴って温室効果ガスが発生します。このガスが気候変動を引き起こすのであれば、経済活動はいわゆる負の外部性をもたらします。こうした負の外部性が起きるときには、温室効果ガスの排出量が過大になる可能性があります。負の外部性を含む市場の失敗が起きるときには、政府のような公的機関による対応が考えられます12。しかし、中央銀行が気候変動問題に対応すべきかどうか、対応するとしたらどのように行うべきかについては議論があり、経済学者の間でも、意見は分かれています13。この問題には、以下の論点があります。第一に、気候変動のメカニズムとそれがもたらす影響には、それこそ不確実性がきわめて大きいことです14。気候変動については、物理的リスクと移行リスクが考えられます。前者の物理的リスクは気候変動による水害などの自然災害の増大を指します。また、後者の移行リスクは環境規制への対応や温室効果ガス排出量を減らすときの産業構造の転換に伴って生じるものを指します。物理的リスクについては、最
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11 BOEの対応については、以下を参照して下さい。https://www.bankofengland.co.uk/climate-change.ECBの対応については、以下を参照して下さい。https://www.ecb.europa.eu/ecb/climate/html/index.en.html.12 より正確に言えば、市場の失敗の是正には、必ずしも政府の存在を必要としません。経済学でいう、いわゆる「コースの定理」が成立する場合には、当事者間の自発的交渉によって負の外部性を内部化することが理論的には可能です。ただし、その場合は、交渉費用が低いことが前提となりますので、無数の主体と関わる気候変動対応には妥当しないと考えられます。13 例えば中央銀行が何もしないリスクを指摘して、金融規制面での関与を求める意見があります(Eichengreen, B., 2021, "New-Model Central Banks," Project Syndicate, February 9,https://www.project-syndicate.org/commentary/central-banks-have-tools-for-climate-change-and-inequality-by-barry-eichengreen-2021-02)。
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中央銀行の関与に対してより懐疑的な意見としては、Blanchard, O., 2021, "Looking Forward: Monetary Policy Post-Covid," in Monetary Policy andCentral Banking in the Covid Era, eds. English, B., K. Forbes, and A. Ubide, CEPR Press, pp. 417-424 があります。14 気候変動問題と政策対応についての不確実性全般については、以下を参照して下さい。Pindyck, R. S., 2021, "What We Know and Don't Know about Climate Change, and Implications forPolicy," Environmental and Energy Policy and the Economy, 2, pp. 4-43.
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9 近の大雨による水害が思い浮かびます。広島県でも、2018年7月や先月の集中豪雨で多数の方が被害に遭われたことは記憶に新しいところです。もっとも、気候変動の自然科学的根拠については、世界中でさまざまな科学者により研究が行われ、議論が続いているところです15。また、自然災害の件数は世界的にみて増えているようですが、自然災害関連の死者数は減少しています(図表11)16。他方で、「何もしないリスク」もあります。現在行動をしないことで、今から 20年、30年後に大きな負の影響が明らかになったり、増すかもしれません。これは「時間的地平の悲劇」と呼ばれるものです17。第二に、中央銀行が気候変動問題に対応するには、中央銀行の使命との関連が問われます。もちろん、中央銀行の存在そのものが歴史の産物ですし、その使命は中央銀行が市場の失敗に対応することで歴史的に進化してきたとも言えます18。こうした中で、日本銀行の現在の使命は、日本銀行法において、物価の安定と金融システムの安定と定められています。物価の安定は「国民経済の健全な発展に資する」ためであり、気候変動は、物理的リスクと移行リスクの面で、まさに物価および金融システムを通じて「国民経済の健全な発展」に影響を及ぼすと考えられます。従って、中央銀行もその使命の範囲内で気候変動問題への対応を行うことは可能であり、それは使命からの逸脱
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15 科学的知見は随時改訂されています。本年8月に公表された『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第I作業部会報告書(自然科学的根拠)』では、強い熱帯低気圧(カテゴリー3~5)の世界における発生割合は過去40年間で増加しており、内部変動では説明できない、すなわち人為的な結果である可能性が高いと、以前の評価を変えています。ただし、すべてのカテゴリーの熱帯低気圧の発生頻度の長期的な傾向については、研究の確からしさは低いと評価しています(https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg1/downloads/report/IPCC_AR6_WGI_SPM.pdf)。16 もっとも、1970年代以降で自然災害の件数が増えているのには、統計の精度が向上したこともあると考えられます(乾友彦「自然災害と経済成長」、『経済セミナー』、2019年2・3月号、22-25 頁)。17 この言葉が普及したきっかけは、以下の講演です。
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Carney, M., 2015, "Breaking theTragedy of the Horizon: Climate Change and Financial Stability," speech given at the Lloyd's ofLondon, September 29, https://www.bankofengland.co.uk/speech/2015/breaking-the-tragedy-of-the-horizon-climate-change-and-financial-stability.18 中央銀行の歴史については、例えば以下があります。Bordo, M. D., and P. L. Siklos, 2018,"Central Banks: Evolution and Innovation in Historical Perspective," in Sveriges Riksbank and theHistory of Central Banking, eds. Edvinsson, R., T. Jacobson, and D. Waldenström, CambridgeUniversity Press, pp. 26-89.
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ではありません。ただし、その場合も、政府との適切な連携・分業がきわめて重要になります19。第三に、中央銀行のもつ具体的な手段が問われます。中央銀行は貨幣・流動性を市中に供給する機関です。物価の安定と金融システムの安定という日本銀行の使命も、そこから導かれます。日本銀行は、資金供給等の金融政策手段と考査・モニタリングという二つの手段を有しています。7月に決定した取り組み方針は、この二つの手段を中心として、当面の気候変動対応を進めていくことを明らかにしたものです。今後については、不確実性に鑑みてさらなる調査・研究が必要です。また、説明責任の観点から、データの収集と政策効果の分析・検証も求められます。さらに、グローバルな市場の失敗である気候変動には、グローバルな対応が不可欠です。わが国だけでなく、各国の協調が求められます(図表 12)。(2)物価の安定日本銀行の気候変動対応は中長期的な物価の安定の実現を目的としています。とはいえ、日本銀行はより喫緊の課題としての物価の安定の実現と、デフレ脱却をないがしろにしている訳ではありません。物価の安定は、先に述べた経済の好循環の実現に必要不可欠です。しかし、なぜ「物価安定の目標」が2%なのでしょうか。
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これについては、金利が下限に張り付いてしまわないための政策余地の確保や、物価統計の上方バイアスに加えて、2%目標がグローバル・スタンダードであることを理由として挙げてきました。この最後の点を少し解説します。現在、変動相場制で資本移動の自由を許容する国・地域では、インフレ目標を採用する中央銀行が増えています。資本移動の自由を許容して自律的に金融政策を運営する場合、為替相場は変動せざるを得ません(図表 13)。しかし、金融政策の運営で各国の中央銀行が同じインフレ目標値を目指しているならば、結果として名目
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19 以下を参照して下さい。Nordhaus, W., 2013, The Climate Casino: Risk, Uncertainty, andEconomics for a Warming World, New Haven and London: Yale University Press(藤崎香里訳『気候カジノ:経済学から見た地球温暖化問題の最適解』日経BP社、2015年)。 11
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為替相場の変動は縮小すると考えられます20。また、2020年8月に米連邦準備制度理事会(FRB)、2021年3月には日本銀行、2021年7月にはECBがそれぞれ金融政策の枠組みの見直し・点検を行いました。この結果、日米欧の中央銀行は、2%という目標値に対するコミットメントを再確認ないし強化し、中央銀行間で政策枠組みの収斂が一段と進みました。さらに、日米欧いずれの中央銀行も、低金利政策を続けており、各国・地域間での金利差は安定的に推移しています。これらの結果として、米ドル、ユーロ、円の為替相場の変動率は近年低下しています(図表 14)。感染症の影響によっても、日本が辛うじてデフレに陥っていないのは、2%目標のもとで金融政策の積極的な緩和姿勢が揺らいでいないからとも考えられます。他方、ここから離れることは為替相場の不安定な動きにつながりうるので避けなければなりません。なお、当初インフレ目標はインフレ率を抑えるためのものであり、デフレからの脱却にはなじまないという解釈が流布していました。実際には、2000年代においても、インフレ目標を採用している中央銀行は、インフレの実績値が目標値を下回れば金融緩和政策を行っておりました。さらに、感染症の影響でインフレ率の実績値が下がった時点でFRBが平均インフレ率目標を採用し、ECBが2%を上下に対称的なものとして再定義しました。日本銀
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20 国際金融システムにおけるインフレ目標の歴史的位置づけとしては、以下の論文を参照して下さい。Rose, A. K., 2007, "A Stable International Monetary System Emerges: InflationTargeting Is Bretton Woods, Reversed," Journal of International Money and Finance, 26(5), pp.663-681.近年の為替レートの変動率の低下に着目したものとしては以下を参照して下さい。Ilzetzki, E., C. M. Reinhart, and K. S. Rogoff, 2020, "Will the Secular Decline in Exchange Rate andInflation V olatility Survive COVID-19?" NBER Working Paper No. 28108.また、日米中央銀行のバランスシートの相対的な規模に着目して為替のレジームを分析した議論としては、以下を参照して下さい。
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Sakurai, M. and T. Kimata, 2020, "An Essay onJapan's Monetary Policy Experience and Lessons," November 6,https://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2020/data/ko201106a.pdf.インフレ目標値が異なる場合でも、インフレ率を調整した実質為替相場は安定しうるとも考えられます。ただし、その場合にはインフレ目標値が低い国・地域での名目為替相場が上昇し、その結果として生産・雇用が減少して物価が下落するという調整が起きます。このような調整に伴うコストを考えると、名目為替相場の安定が望ましいと考えられます。
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行は 2016年9月からオーバーシュート型コミットメントを採用しています。このように、インフレ目標はインフレ率を引き上げるためにも利用されています。ただし、各国中央銀行の金融政策の枠組みが収斂しつつあることは、その時々に取るべき具体的な政策がどこでも同じになることを意味しません。仮に米国で、物価上昇率が目標の2%を超え、平均インフレ率目標も実現され、金融の引き締め局面に入ったとしても、それを理由として日本銀行が金融政策を調整することはありません。あくまで日本銀行の目標はわが国において2%の「物価安定の目標」を安定的に達成することです。現在はエネルギー・資源価格の上昇を受けて、わが国でも生鮮食品を除く消費者物価、いわゆるコアCPIが上昇しておりますが、日本銀行はコアCPIだけをみて政策を判断している訳ではありませんし、エネルギー・資源価格の上昇は一時的に終わるかもしれません。他方、エネルギー・資源価格が上昇すると交易条件が悪化して所得が国外に流出する点にも注意を払う必要があります。その場合、所得を維持するためには、マクロ経済政策を拡張的に運営するのが望ましくなります。一方、そうした政策は物価上昇率をさらに押し上げる可能性が生じますので、予想物価上昇率の動向に注意する必要があります。
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いずれにせよ、1960年代後半からの大インフレの歴史が教えるように、国内需要の持続的な拡大がない限り、コストプッシュ要因だけで持続的なインフレになることはないというべきでしょう 21。また、現状では2%の目標にはまだまだ距離がある状況です。さらに3月点検で確認したようにオーバーシュート型コミットメントには、これまでのデフレを「埋め合わせる戦略」の要素を含んでおり、その観点からは仮に一時的に2%に達したとしても物価のオーバーシュートを許容することになります。目先のコア
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21 大インフレは1970年代の石油ショックの前から始まりました。例えば、以下を参照して下さい。Meltzer, A. H., 2010, A History of the Federal Reserve, Volume II, Book 1, 1951-1969,Chicago and London: The University of Chicago Press, pp. 667-681. 若田部昌澄『危機の経済政策:なぜ起きたのか、何を学ぶのか』日本評論社、2009年、73-126 頁。Bordo, M. D.,and A. Orphanides, eds., 2013, The Great Inflation: The Rebirth of Modern Central Banking,Chicago and London: The University of Chicago Press. 13
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CPIの動きをもとにして、時期尚早に緩和的な金融環境を引き締めないことが肝要です。(3)金融システムの安定日本銀行のもう一つの使命は、金融システムの安定です。政策委員会では、わが国金融機関の経営状況や金融システムのリスク点検について、これまでも随時、報告・説明を受けておりましたが、4月からは金融政策決定会合の場においても、年4回の『展望レポート』を公表する時期に合わせて、金融機構局から報告を受けることになりました。この背景には、物価の安定には金融システムの安定が欠かせないという考え方があります。もっとも、物価の安定と金融システムの安定は、双方向的なものです。例えば、物価や資産価格が下がるデフレの状態では、実質金利が上がって投資は抑制され、企業の実質的な債務負担は増し、金融機関の信用コストは増えることになります22。物価の安定は金融システムの安定にも資するのです。また、金融システムからの警告をいかに読み取り、金融政策に反映させるかは、現在進行形の課題です。『金融システムレポート』で示しているヒートマップや、GDP at Risk といった指標はありますが、情勢判断の際、こうした指標を解釈するうえでは、その時点での経済金融環境に関する他の情報も勘案する必要があります23。例えば、 4月に公表した『金融システムレポート』のヒートマップでは、4つの指標で、過去のトレンドから過熱方向へ乖離し
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22 そもそもは米国の経済学者I.フィッシャーの「大不況の債務デフレーション理論」に遡る考え方です(Fisher, I., 1932, Booms and Depressions: Some First Principles, New York:Adelphi および Fisher, I., 1933, "The Debt-Deflation Theory of Great Depressions," Econometrica,1(4), pp. 337-357)。現代における定式化としては、Bernanke, B. S., 2000, Essays on the GreatDepression, Princeton: Princeton University Press, pp. 84-89(栗原潤・中村亨・三宅敦史訳『大恐慌論』日本経済新聞出版社、2013年、91-97 頁)が著名です。1990年代日本の不良債権問題に応用した研究としては、以下の論文があります。大西茂樹・中澤正彦・原田泰「デフレーションと過剰債務」、『フィナンシャル・レビュー』、2002年12月、143-177 頁。
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23 GDP at Risk とは、「先⾏きX年間の実質GDP成長率は、Y%の確率で、Z%以下に低下する可能性がある」という視点から景気変動に関するリスクを定量化するもので、各国中央銀行、国際機関が採用しています。日本銀行では、『金融システムレポート』2018年10月号から結果を公表しています。
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14 た状態を示す赤色が点灯していますが、日本銀行では、これを金融活動の過熱を表しているとはみていません。感染症の影響で日本経済全体の名目GDPが落ち込む中で、企業金融支援策等の結果として積極的な金融仲介活動が行われ、企業の資金繰りが支えられていることの表れだからです24。金融システムの安定を指標から読み取るのは依然として課題です25。 4.広島県経済の現状と展望次に、広島県経済についてお話します。現状、広島県の景気は、下押し圧力は続いているものの、緩やかな持ち直し基調にあります。個人消費は、感染症の影響が残るもと、サービス消費を中心に、持ち直しが一服しています。輸出、生産は、半導体不足など供給制約の影響から、自動車を中心に下押し圧力が続いていますが、緩やかな持ち直し基調は維持しています。先行きは、ワクチン接種の進展や供給制約の緩和に伴い、徐々に改善に向かうと見込んでいます。中長期的には、人口減少や少子高齢化等に加え、コロナ禍で顕在化した課題への取り組みが、持続的な成長のために重要です。もっとも、私は常日頃から、人口減少や少子高齢化の影響は過大評価されているのではないか、と考えています。実際、国際的にみても、人口増加率と一人当たり経済成長率の間に明確な相関関係はありませんし、人口が減少する中でも広島県の一人
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24 関連して、いわゆる「ゾンビ企業」なるものは、マクロの経済状況に応じて、不況の時に出現して、好況の時には消えたりする性質があります(Gagnon, J., 2021, "Zombies Are aSymptom of Economic Weakness, Not a Cause," Peterson Institute for International Economics,https://www.piie.com/commentary/op-eds/zombies-are-symptom-economic-weakness-not-cause. ジョセフ・ギャノン「経済教室ゾンビ対策、雇用回復が先決経済の新陳代謝どう進める」、『日本経済新聞』、2021年5月17日朝刊)。25 金融危機についての学界の研究動向については、以下の展望論文が有益です。Sufi, A.,and A. M. Taylor, 2021, "Financial Crises: A Survey," NBER Working Paper No. 29155.私自身は、定性的な情報として、特に歴史から学ぶことは有益ではないかと考えております。一例として以下の論文を参照して下さい。
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Rockoff, H., 2021, "Oh, How the MightyHave Fallen: The Bank Failures and Near Failures That Started America's Greatest FinancialPanics," The Journal of Economic History, 81(2), pp. 331-358. この論文では、米国の金融危機の歴史をたどり、金融危機ではこれまで信用されていたシャドーバンクの倒産が相次ぐこと、その典型的な原因は不動産への過剰投資にあることなどを論じています。
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当たり県内総生産は、近年、振れを伴いつつも増加傾向にあります(図表15)。いずれにせよ、地域の課題は、住民の暮らしやすさといった地域の魅力を向上させることです。そのためには産学官金による積極的な投資と、各種の技術・制度・政策イノベーションが欠かせません。この点、広島県では、産学官金が連携して地域活性化の取り組みを進めていると見受けられます。ここでは、三つの取り組みを取り上げます。一つめは、都市機能の充実・強化に向けた取り組みです。広島県内では、広島市中心部をはじめ、呉市や福山市などでも再開発事業が実施されています。また、ICT技術を活用して様々な交通機関をシームレスにつなぐMaaS(Mobility as a Service)の導入や実証実験が、広島市や東広島市、福山市のほか、中山間部の庄原市で行われ、利用者の利便性向上を図る次世代の交通網整備が進められています。県内の企業・金融機関、自治体、大学が参画するこれらの事業は、居住者や移住希望者が住みやすいと感じるまちづくりにつながるとみられます。20 歳代など若年層の転出超過による社会減が広島県での人口減少の一因ですが、最近の広島県は、移住希望地ランキングの上位に入ることが多くなっています。まちづくりの取り組みにより、県内各都市の魅力がさらに増すことが期待されます。二つめは、デジタル技術の活用です。
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広島県では、AIを活用したものづくりにより、製造業で「24 時間 365日無人稼働の実現」を目指す取り組みのほか、農業へのAI/IoT活用に向けた実証事業、保育現場でのIoT活用による保育士負担軽減の実証実験など、様々な分野で民間企業や団体、大学などの連携による取り組みがみられます。また、広島県が全国に先駆けて立ち上げた「広島県DX推進コミュニティ」や「ひろしまサンドボックス」が後押ししています。こうした官民を挙げた取り組みが、生産性向上や技術革新を通じて、地域経済の活性化や成長に資すると期待されます。三つめは、観光面の取り組みです。広島県は、二つの世界文化遺産、サイクリングの聖地とも言われるしまなみ海道、旧日本帝国海軍の重要拠点としての呉など、日本有数の観光資源を有しています。昨年来、感染症の影響に
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16 より、県内観光地への人出や宿泊客数が低水準で推移する中でも、観光連盟等が、観光施設等の混雑状況をWeb上で見える化するといった取り組みを行い、個人旅行に着目した観光地域づくりを進めています。また、県内企業等が参画する広島空港民営化を契機に、コロナ後も展望した観光需要の創出を目指す取り組みも始まっていると聞いています。そうした取り組みが、感染症後の世界で、国内外からの旅行消費の増加や観光産業の活性化につながることが期待されます。広島県は、太平洋戦争末期の空襲や原子爆弾投下で壊滅的な被害を受け、戦後の経済復興は県民、地元企業・金融機関、行政機関が一致団結して推進されました。上述の取り組みでも、こうした連携がとられています。また、気候変動問題は、対応への社会的要請が高まっており、経済への影響を考慮しつつも、あるいは考慮するがゆえに、産学官金が連携して取り組むべき重要課題と考えられます。日本銀行としても、広島支店を通じて情報収集や意見交換を行い、地域活性化に向けた様々な取り組みに少しでも貢献できるように努めてまいります。
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5.おわりに冒頭に挙げた経済学者のナイトは、不確実性を減少させていく仕組みとして、科学的な調査や情報の蓄積によって未来に関する知識を増すこと、組織の大規模化、未来に対するコントロールを増すことなどを挙げています26。感染症の性質が明らかになり、我々の知識が増し体制が整うにつれて、不確実性も次第に予測可能なリスクへと変化していくことが予想されますし、現にそのように事態は動いているといえます。冒頭で挙げたもう一人の経済学者のケインズが強調したように、政府や中央銀行は、人類が不確実性に対応するための工夫の一部といえます。とはいえ、不確実性は変化する人間社会につきものです。新しい不確実性 26 Knight, Risk, Uncertainty and Profit, p. 347(邦訳447-448 頁)。 17
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として気候変動が浮かび上がってきています。ナイトは、不確実性を減らすための選択肢として、もう一つ挙げています。それは進歩そのものを遅らせることです。これは、今でいえば脱成長かもしれませんが、当然のことながら進歩や成長によって人類が享受してきた果実を諦めるという意味で直接コストがかかるものです。気候変動問題への対応を考えるに当たって重要なことは、経済成長との両立を目指すことです。経済成長は平均寿命の延長など、人類に多大な果実をもたらしてきましたし、自然災害の発生の少ない脱炭素経済に移行するには、経済に十分な余裕がなければなりません。また、脱炭素経済を実現するには現時点では存在しないか、費用対効果の観点から現在では利用されていない新しい技術が必要です27。新しい技術の開発と応用には、研究開発、機械設備、ソフトウェアへの新規投資が必要とされ、経済成長が不可欠です。脱成長、ゼロ成長では、温室効果ガスを排出する古い技術や機械が温存されるので、気候変動問題を解決するのはきわめて難しいのです。「国民経済の健全な発展」が気候変動対策にも必要であると言えます28。我々が直面している課題は、経済成長と不確実性への対応を両立させることです。 以上
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27 Gates, B., 2021, How to Avoid a Climate Disaster: The Solutions We Have and the BreakthroughsWe Need, New York: Penguin Random House, pp. 198-205(山田文訳『地球の未来のため僕が決断したこと:気候大災害は防げる』早川書房、2021年、265-278 頁)。Lomborg, B., 2020,False Alarm: How Climate Change Panic Costs Us Trillions, Hurts the Poor, and Fails to Fix thePlanet, New York: Basic Books, pp. 167-183.28 技術革新は通常、機械設備やソフトウェアといった資本に体化されて実現します。戦後日本経済の歴史を紐解くと、経済成長がエネルギー効率性の向上を促進してきました。ことに効率性の向上が一番大きかったのは、1955-73年の高度経済成長期でした(野村浩二『日本の経済成長とエネルギー:経済と環境の両立はいかに可能か』慶應義塾大学出版会、2021年)。
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最近の金融経済情勢と金融政策運営2021年9月1日日本銀行副総裁若田部昌澄― 広島県金融経済懇談会における挨拶 ―48049050051052053054055056057058006070809101112131415161718192021222324実質GDP名目GDP年度(季節調整済年率換算、兆円)2021年度+3.8%2022年度+2.7%2023年度+1.3%19/3Q563兆円19/3Q558兆円 21/2Q546兆円21/2Q539兆円日本銀行の経済見通し(2021年7月展望レポート)図表12.経済の現状と展望1(注)見通しは、日本銀行政策委員の大勢見通し。(出所)内閣府、日本銀行
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物価下落支出縮小所得減少悪循環値下げ圧力売上減少雇用・賃金抑制消費・投資スタンスの後退所得から支出への循環メカニズム図表22所得増加支出拡大物価上昇好循環値上げ圧力売上増加雇用・賃金促進消費・投資スタンスの高まり2.経済の現状と展望607080901001101200608101214161820実質輸出鉱工業生産(季節調整済、2015年=100)年輸出・生産企業収益企業部門3図表3(注)1. 中央図の経常利益は、法人季報ベース。金融業、保険業を除く。2009/2Q以降は、純粋持株会社を除く。2. 右図はソフトウェア投資額・研究開発投資額を含み、土地投資額は含まない(2016/12月調査以前は、研究開発投資額を含まない)。全産業全規模+金融機関の値。(出所)財務省、経済産業省、日本銀行設備投資2.経済の現状と展望05101520250608101214161820経常利益(季節調整済、兆円)年19/4Q-20-15-10-5051015200608101214161820短観(実績)短観(6月調査時点の当年度計画値)年度(前年比、%)
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708090100110586062646668700608101214161820就業者(左目盛)正規(右目盛)非正規(右目盛)年(季節調整済、百万人)(季節調整済、2019年=100)失業率家計部門(1)4図表4(注)1. 左図の2012年以前の正規、非正規は、詳細集計ベース。2. 中央図の未活用労働指標4(LU4)は、労働力人口と潜在労働力人口の合計に対する失業者、追加就労希望者、および潜在労働力人口の合計の比率(四半期)。(完全失業者+休業者)/労働力人口と完全失業率は季節調整値。3. 右図の各四半期は、1Q:3~5月、2Q:6~8月、3Q:9~11月、4Q:12~2月。2016/1Q以降は、共通事業所ベース。(出所)総務省、厚生労働省2.経済の現状と展望就業者数賃金-6-5-4-3-2-101230608101214161820名目賃金実質賃金一般労働者の名目所定内給与(前年比、%)年0246810120608101214161820未活用労働指標4(完全失業者+休業者)/労働力人口完全失業率年(%)-8-6-4-20240608101214161820実質名目実質(消費税・教育無償化の影響を除く)(前年比、%)年家計部門(2)5図表5(注)1. 左図は、1Q:3~5月、2Q:6~8月、3Q:9~11月、4Q:12~2月。
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雇用者所得=名目賃金(毎月勤労統計)×雇用者数(労働力調査)。毎月勤労統計の2016/1Q以降は、共通事業所ベース。実質および実質(消費税・教育無償化の影響を除く)は、それぞれCPI(除く持家の帰属家賃)、CPI(除く持ち家の帰属家賃、消費税率引き上げ・幼児教育無償化の影響を除くベース)を用いて日本銀行スタッフが算出。2. 右図は、日本銀行「消費活動指数」より作成。実質個人消費は、「実質消費活動指数(旅行収支調整済)」。(出所)日本銀行、総務省、厚生労働省等雇用者所得(雇用者数×賃金)2.経済の現状と展望個人消費70809010011012019/119/720/120/721/1実質個人消費うち財うちサービス(季節調整済、2015年=100)月
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企業部門の貯蓄超過二つの「待機資金」6図表6(注)左図の詳細は『経済・物価情勢の展望』(2021年4月)のBOX3参照。(出所)日本銀行、内閣府等個人消費と消費機会の喪失2.経済の現状と展望666870727476788082848617181920特別定額給付金「強制貯蓄」以外の貯蓄「強制貯蓄」可処分所得等(特別定額給付金を除く)家計最終消費支出(感染症の影響を除く)家計最終消費支出年(季節調整済、兆円)-100-80-60-40-200204060801008590950005101520家計部門企業部門一般政府国内部門貯蓄投資バランス(季節調整済年率換算、兆円)年度貯蓄超過投資超過横ばい圏内で推移する予想物価上昇率二つの「予想」7図表7(注)1. 左図は、企業行動に関するアンケート調査(上場企業)ベース。2. 右図の家計は、修正カールソン・パーキン法による。企業は、全産業全規模ベースの物価全般の見通し(平均値)。
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(出所)内閣府、QUICK「QUICK月次調査<債券>」、日本銀行底堅さを維持する成長期待2.経済の現状と展望01234585878991939597990103050709111315171921実質経済成長率の見通し(今後3年間)(%)年0.00.51.01.52.02.5050709111315171921家計(生活意識アンケート調査、今後5年間)企業(短観、5年後)市場参加者(QUICK、2年先~10年後までの8年間)(前年比、年率平均、%)年
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大規模な感染症関連の財政支援策政府・中央銀行の対応8図表8(注)右図の感染症関連の財政支援策は、IMFのFiscal Monitor(2021/4月)のドル建てで算出。財政収支に直ちに影響を及ぼす支援策のみを対象(税の繰り延べ・債務保証等は含まない)。欧州は、ドイツ・フランス・イタリア・スペイン・英国。新興国は29か国。(出所)Haver、IMF、日本銀行等拡大する中央銀行のバランスシート2.経済の現状と展望051015202530日本米国欧州新興国(対名目GDP比、%)020406080100120140070809101112131415161718192021年(対名目GDP比、%)日本米国欧州-2-1012161718192021携帯電話通信料Go To トラベルの影響消費税・教育無償化の影響エネルギー上記の要因を除くベースCPI(除く生鮮)(前年比、%)年消費者物価指数9図表92.経済の現状と展望(注)エネルギーは、石油製品・電気代・都市ガス代。 2020/4月以降の消費税・教育無償化の影響は、高等教育無償化等の影響も加味した日本銀行スタッフによる試算値。(出所)総務省
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気候変動に関する日本銀行の取り組み方針10図表10金融政策金融システム調査研究国際金融業務運営情報発信 気候変動問題は、将来にわたって広範な影響を及ぼしうるグローバルな課題 社会・経済を構成している各主体による積極的な取り組みが求められる日本銀行は、物価の安定と金融システムの安定という使命に沿って気候変動に関する取り組みを進めるため、包括的な取り組み方針を決定気候変動が、経済・物価・金融システムにもたらす影響は、不確実性が高く、時間の経過に伴って大きく変化する可能性今後も、各種の施策について、不断に検討を重ね、対応していく方針3.中央銀行の今日的課題自然災害3.中央銀行の今日的課題図表1111自然災害の件数の増加(世界全体)自然災害による死者数の減少(世界全体)(出所)EM-DAT: The Emergency Events Database - Université catholique de Louvain (UCL) - CRED, D. Guha-Sapir -www.emdat.be, Brussels, Belgium.0501001502002503003504004501900192019401960198020002020その他干ばつ地震暴風雨洪水(件)年0.00.51.01.52.02.53.03.54.01900192019401960198020002020(百万人)年
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各国の二酸化炭素排出量3.中央銀行の今日的課題図表1212(出所)Ritchie, H. and Roser, M., "CO₂ and Greenhouse Gas Emissions," OurWorldInData.org., 2020, https://ourworldindata.org/co2-and-other-greenhouse-gas-emissions024681012190019201940196019802000中国米国日本ドイツ英国インド(10億トン)年国際金融のトリレンマ3.中央銀行の今日的課題図表1313自由な資本移動金融政策の自律性為替相場の安定金本位制ブレトンウッズ体制変動為替相場制/インフレ目標
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0.000.050.100.150.200.250.300.350.4090929496980002040608101214161820(ドル)年051015202530354090929496980002040608101214161820(円)年名目為替レートの変動率の低下図表143.中央銀行の今日的課題14ドル/円ユーロ/ドル(注)年間の日中最高値と最安値の差。2021年は1月~7月。(出所)Bloomberg人口増加率とGDP図表154.広島県経済の現状と展望15広島県の人口と一人当たり県内総生産(GDP)各国の人口増加率と一人当たりGDP(注)左図は、OECD加盟国のうち、1961年以降のデータが取得可能な23か国を表示。(出所)世界銀行、内閣府8085909510010511011512027027528028529029530000020406081012141618人口(左目盛)一人当たり実質県内総生産(右目盛)(万人)(2000年度=100)年度012345670.00.51.01.52.02.5一人当たり実質GDP成長率(1961年~2019年平均、%)人口増加率(1961年~2019年平均、%)