【挨拶】「わが国の経済・物価情勢と金融政策」(長崎県金融経済懇談会)
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日本銀行政策委員会審議委員片岡剛士わが国の経済・物価情勢と金融政策 ── 長崎県金融経済懇談会における挨拶要旨 ── 日本銀行 2021年9月2日 1
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1.はじめに日本銀行の片岡でございます。はじめに、先月に発生しました豪雨の被害に遭われた方々に、心よりお見舞いを申し上げます。また、災害の発生から間もない中、本日は長崎県の行政、財界、金融界を代表する皆様とオンライン形式で懇談させて頂く貴重な機会を賜り、誠にありがとうございます。あわせて、皆様には、日頃から日本銀行長崎支店の業務運営に対し、ご支援、ご協力を頂いておりますことを、この場をお借りして改めて厚く御礼申し上げます。本日は、わが国の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営につきまして、私の考えを交えつつお話しします。その後、皆様から、長崎県経済の動向や日本銀行の業務・金融政策に対する率直なご意見をお聞かせ頂ければと存じます。長崎県の現状や課題に対する理解を深めるとともに、頂いたご意見を日本銀行の業務や政策判断に活かしてまいりたいと考えております。どうぞよろしくお願い申し上げます。2.経済・物価情勢(1)海外経済の動向はじめに、海外経済の動向についてお話ししたいと存じます。まず、経済動向に大きな影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症の状況を確認します。図表1で新規感染者数の推移をみると、今年の春先にかけて増加した後、減少に転じましたが、7月以降は再び増加傾向にあります。こうした中、世界経済は、国・地域や産業ごとに違いはあるものの、全体としては回復しています。
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主要国・地域別にみますと、米国経済は、経済活動の再開が進むもとで、高めの成長と2%を超える物価上昇率が続いているほか、欧州経済も、米国経済にやや遅れる
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2 かたちで回復しています。また、中国経済は、輸出・生産が堅調に増加するもとで回復を続けています。中国以外の新興国や資源国経済は、感染者数が再拡大した一部の国々では内需の下押しがみられるものの、全体としてみれば、持ち直しの動きを維持しています。産業別にみると、製造業部門の生産活動や貿易量は回復のけん引役となっていますが、感染症の影響を色濃く受けるサービス業部門では、ワクチン接種が進んでいない地域を中心に下押し圧力が加わっている状況です。図表1 新型コロナウイルス新規感染者数
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(注)1. 後方7日移動平均。直近値は、8/24日。2. 米国は CDC 公表値、ユーロ圏と米欧中以外は WHO 公表値。中国は、20/2/17~19日について、他の期間とベースが異なるため段差が生じているほか、20/3/16日から当局公表値(20/3/15日まで WHO 公表値)。(出所)CEIC世界経済の先行きですが、各国の感染症の動向、公衆衛生上の措置や政府・中央銀行によるマクロ経済政策の強弱により、回復の足取りには違いが生じている点には留意が必要ですが、回復自体はしっかりしたものになってきています。図表2は、 IMFによる今年7月の世界経済見通しを、昨年6月時点の見通しと012345678010020030040050060070080014710147米国ユーロ圏米欧中以外中国(右目盛)(千人)(千人)2020年1月2021年1月 3
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比較しています。 IMF は、昨年6月時点では、今年の世界経済の成長率を+5.4%としていましたが、最新の見通しでは+6.0%に引き上げ、2022年も+4.9%と過去の平均よりも高めの成長率を予想しています。こうした動きの背景には、ワクチン接種の加速1が挙げられます。特に米国では、経済活動の再開が進むもとで、積極的な財政・金融政策も相まって回復が加速し、貿易活動を通じて世界経済の押し上げに寄与しています。もっとも、世界経済の先行きを巡っては、感染症の動向や、国際商品市況などの様々なリスク要因が存在しており、当面は下振れリスクに引き続き留意することが必要です。図表2 世界経済見通し(IMF) (出所)IMF, "World Economic Outlook (June 2020, April 2021, July 2021)" 1 今年の3月以降、接種回数の拡大が進み、世界の累計接種回数は48 億回を超えています。地域別にみると、アフリカなどの発展途上国で接種が遅れています。-6-5-4-3-2-10123456700010203040506070809101112131415161718192021222021年7月2020年6月時点1980-2019年平均(+3.5%)(前年比、%)2000年-3.2%-4.9%+6.0%+5.4%+4.9%見通し 4
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(2)わが国の経済情勢次に、日本経済についてみていきます。まず、足もとの景気動向について確認します。図表3では、景気一致指数、景気先行指数および景気ウォッチャー調査による景気の現状水準判断 DIの推移を示しています。景気一致指数は足もとの景気変動の大きさやテンポをみたものですが、2018年以降緩やかに低下が進む中、2019年10月の消費税増税、2020年の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大とそれに伴う公衆衛生上の措置の実施、と段階を追って落ち込みが加速しました。図表3 わが国の景気動向 (注)直近は、景気一致指数と景気先行指数が 2021年6月、景気の現状水準判断DIが2021年7月。シャドーは景気後退局面。(出所)内閣府「景気動向指数」「景気ウォッチャー調査」景気一致指数は 2020年5月をボトムに上昇に転じていますが、より仔細にみると、2020年半ば以降の上昇テンポがやや鈍くなっているようにみえます。こうした傾向は、先行きの景気変動の大きさやテンポをみた景気先行指数についても同様です。景気ウォッチャー調査の景気の現状水準判断DIについては、こ1015202530354045505560687684921001081112131415161718192021景気一致指数景気先行指数景気の現状水準判断DI(右目盛)(2015年=100)(季節調整済、DI)2011年 5
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れが50 を下回ると、景気が「悪い」または「やや悪い」と回答した人の割合が、景気が「良い」または「やや良い」と回答した人の割合よりも多いことを示していますが、2020年4月に 10.6 まで低下した後、改善してはいるもののその動きは鈍く、足もと、消費税増税の影響を受けて落ち込みが加速した 2019年末から2020年初の水準にようやく到達したところです。以上からは、景気の持ち直しの動きは進んでいるものの、十分とは言えないことがわかります。次に、実質GDP成長率から日本経済の動向を確認してみましょう。図表4左図は実質GDP成長率を折れ線で、民間消費や民間設備投資といったGDPを構成する需要項目の寄与度を棒グラフで示しています。2021年4~6月期の成長率は、前期比+0.3%、年率では+1.3%となりました。感染拡大に伴い公衆衛生上の措置が再び強化されたものの、民間消費や民間設備投資の持ち直しが寄与し、 2四半期ぶりのプラス成長となりました。図表4右図は実質GDPの水準を示していますが、2020年4~6月期の大きな落ち込みからの改善は一服したかたちとなっています。図表4 実質GDP実質GDP成長率と需要項目別寄与度実質GDPの推移
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(出所)内閣府「2021年4~6月期四半期別GDP速報(1次速報値)」4804905005105205305405505605705802018年192021(季節調整済年率換算、兆円)-35-30-25-20-15-10-505101520253018192021民間消費民間設備投資等政府支出輸出輸入在庫等実質GDP成長率(季節調整済、前期比年率、%)2018年 6
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日本経済の先行きですが、7月に公表した日本銀行の展望レポートでは、図表5のとおり、政策委員の実質GDP成長率見通しの中央値として、 2021年度+3.8%、2022年度+2.7%、2023年度+1.3%と展望しています。図表5 経済・物価見通し(2021年7月展望レポート)対前年度比、%、政策委員見通しの中央値。実質GDP 消費者物価指数(除く生鮮食品)2021年度+3.8 +0.62022年度+2.7 +0.92023年度+1.3 +1.0(注)消費者物価指数は 2015年基準。(出所)日本銀行「経済・物価情勢の展望(2021年7月)」日本経済は、ワクチン接種の進捗などに伴い感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで、外需の拡大や緩和的な金融環境、政府の経済対策の効果が下支えとなって回復基調を辿ることが予想されます。また感染症の影響が収束すれば、成長はさらに強まることが期待できます。見通しに対するリスク・バランスは、感染症の影響を中心に当面、下振れ方向のリスクに留意する必要があります。特に感染症の帰趨と、それによる経済・物価の下振れリスクには引き続き十分に注意していく必要があります。以上、展望レポートに基づいて先行きの日本経済の見方についてご紹介しました。以下では、個人消費、設備投資、輸出といったGDPの主要構成項目の動向について確認したいと存じます。 7
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まず、個人消費です。図表6は、実質個人消費の推移を耐久財、非耐久財、サービスといった形態別にみたものです。2013年以降の動きをみると、実質個人消費は、消費税率が引き上げられた 2014年と 2019年に落ち込みましたが、それは財消費の落ち込みによるところが大きく、サービス消費は比較的堅調に推移していました。2020年以降、実質個人消費は感染症の影響で再び落ち込みましたが、それには観光・宿泊・飲食・娯楽といったサービス消費の落ち込みが影響していることが特徴です。昨年5月をボトムに耐久財消費は持ち直しており、2021年6月時点で感染症の影響が顕在化する直前である 2019年12月を1割程上回る水準まで回復しましたが、サービス消費は、感染再拡大の影響もあって、2021年6月時点で 2019年12月の水準を2割程下回っています。こうしたサービス消費の状況を反映して実質個人消費全体も落ち込んだ状態が続いており、感染症が収束しない間は、個人消費にとって厳しい状況が続くと予想されます。この点、足もと、変異株の感染拡大に伴い公衆衛生上の措置が再び強化された中では、個人消費の下振れリスクは一段と強まっていると私自身は考えています。図表6 実質個人消費
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(注)直近時点は 2021年6月。(出所)日本銀行「消費活動指数」91.581.8107.4100.86070809010011012013014020131415161718192021全体サービス耐久財非耐久財(2019年12月=100)年 8 続いて、個人消費の動向に影響を与える雇用や所得環境を確認します。図表7左図は完全失業率と労働力率の動きをみています。労働力率は、昨年春頃に生じた高齢者や女性の非労働力化の動きが巻き戻るかたちで再び上昇しましたが、足もとでは、上昇の動きは一服しています。また、完全失業率は3%台前後と、感染症の拡大前の水準と比べると高止まりが続いています。図表7右図の実質総雇用者所得は、こうした雇用情勢を受けて回復基調にあるものの、コロナ禍前の水準には達していない状況です。図表7 雇用・所得情勢完全失業率と労働力率実質総雇用者所得
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(出所)総務省「労働力調査(基本集計)」(出所)内閣府「総雇用者所得」次に、企業の設備投資です。図表8のとおり、名目GDPに占める設備投資額の比率である設備投資比率は、2019年までの水準には及ばないものの、足もとでは持ち直しが続いています。生産・営業用設備判断DIも、感染症の拡大に伴い過剰方向に変化しましたが、足もとでは、設備過剰の度合いが着実に縮小していることがわかります。先行きの設備投資は、海外需要の高まりに伴う機械投資に加えて、デジタル化に向けたソフトウェア投資、さらに成長分野への研究開発投資や環境対応投資などが増加することが期待されます。 92949698100102131415161718192021(季節調整済、2019年12月=100)2013年123456758596061626364658590950005101520労働力率完全失業率(右目盛)(%)(%、逆目盛)20001985年 9 図表8 設備投資比率
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(注)設備投資比率は、名目GDPに対する設備投資額の比率。(出所)内閣府「2021年4~6月期四半期別GDP速報(1次速報値)」、日本銀行「短観」最後に輸出です。図表9は、実質輸出の動向を、国・地域別および財別に示したものです。個人消費や設備投資とは異なり、輸出は、昨年末の時点で感染症の影響が深刻化する前の水準を概ね回復し、その後も増加基調を続けています。図表9 実質輸出国・地域別財別 (出所)日本銀行「実質輸出入の動向」-10-5051015202514151617050709111315171921設備投資比率生産・営業用設備判断DI(全産業、大企業、右目盛)(%)(「過剰」-「不足」、%ポイント、逆目盛)設備過剰設備不足2005年506070809010011012013015161718192021米国EU中国実質輸出計(季節調整済、2019年=100)2015年40506070809010011012015161718192021自動車関連情報関連資本財(季節調整済、2019年=100)2015年 10
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地域別にみると中国を含めたアジア向けが堅調であり、財別には情報関連や資本財の輸出が好調です。その一方で、自動車関連は、半導体不足の影響から米国向けを中心に増勢が鈍化しています。輸出全体は、世界経済の成長率の高まりに伴って、当面増加基調を強めていくと思われます。(3)物価の現状と先行き続いて、物価情勢をみていきます。図表 10 左図に示した本年7月の消費者物価指数の実績値は、2020年基準への改定に伴い携帯電話通信料の下押し寄与が拡大したことを主因に、生鮮食品を除く総合で前年比-0.2%、生鮮食品およびエネルギーを除く総合で前年比-0.6%となりました。もっとも、試算値ではありますが、携帯電話通信料に加え、エネルギー価格などの一時的な要因を除いた消費者物価の前年比では、新基準においても小幅のプラスで推移しています。図表 10 右図では消費者物価の基調的な変動を示す指標の動きをまとめています。物価の基調を示すこれらの指標は、昨年は緩やかに低下しましたが、足もとではやや改善して0%近傍での動きになっています。図表10 消費者物価消費者物価指数消費者物価の基調的変動
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(注)消費税、幼児教育・保育無償化の影響を除く。(出所)総務省「消費者物価指数」(出所)日本銀行「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.01112131415161718192021生鮮食品を除く総合生鮮食品及びエネルギーを除く総合(試算値)生鮮食品・エネルギー・高等教育無償化・GoToトラベル・携帯電話通信料の影響を除く(前年比、%)2011年-50-2502550-2.0-1.5-1.0-0.50.00.51.01.52.01112131415161718192021刈込平均値加重中央値上昇品目比率-下落品目比率(右目盛)(前年比、%)(%ポイント)2011年 11
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物価の先行きについてですが、本年7月の展望レポートにおける政策委員見通しの中央値では、前掲図表5のとおり、2015年基準で 2021年度+0.6%、2022年度+0.9%、2023年度+1.0%と、徐々に上昇率が高まっていく予想となっています。もっとも、図表 11 で、物価の基調的な変動に影響するマクロ的な需給ギャップと中長期的な予想インフレ率をみますと、左図の需給ギャップは、ひと頃と比べて供給超過幅が縮小したものの、2021年1~3月時点で1%超の供給超過が続いています。また、予想インフレ率は、右図のとおり、2019年末から2020年前半にかけて低下が続いた後、足もとでは横ばい圏内の動きです。このように、需給ギャップや予想インフレ率を通じた物価への下押し圧力は和らいではいるものの、 2%の「物価安定の目標」に近づくべく、両者が伸びを強めているとは言えない状況です。図表 11 需給ギャップと予想インフレ率需給ギャップ合成予想物価上昇率
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(注)各主体のインフレ予想として、企業は短観(販売価格DI)、家計は生活意識アンケート(-5%超+5%未満の回答を集計)、専門家はQUICK調査、コンセンサス・フォーキャスト、インフレ・スワップ・レートをそれぞれ使用。(出所)Consensus Economics「コンセンサス・フォーキャスト」、QUICK「QUICK 月次調査<債券>」、Bloomberg、日本銀行 -6-4-2024685889194970003060912151821労働投入ギャップ資本投入ギャップ需給ギャップ(%)1985年0.00.51.01.52.0101112131415161718192021企業・家計・専門家(QUICK調査)の予想物価上昇率を合成企業・家計・専門家(コンセンサス・フォーキャスト)の予想物価上昇率を合成企業・家計・専門家(インフレ・スワップ・レート)の予想物価上昇率を合成2010年(前年比、%) 12
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足もとの国際商品市況の上昇や、感染症の収束に伴うペントアップ需要が一時的に物価を押し上げる可能性は十分あり得ますが、一時的な影響が2%の「物価安定の目標」の達成につながる動きとして結実するには、個人消費を含む内需が力強さを増し、それを踏まえた小売・サービス企業の価格設定スタンスがより積極的なものになること、言い換えれば需給ギャップが需要超過を強め、かつ予想インフレ率が2%近傍でアンカーされる状況になることが必要です。見通し期間においてそうした変化を見通すのは困難であり、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていないというのが私の考えです。3.金融政策運営以上の経済・物価見通しを踏まえつつ、現在の金融政策の概要と最近の政策決定についてご説明します。そのうえで、金融政策運営に対する私の考えを述べたいと存じます。(1)金融政策の概要と最近の政策決定日本銀行は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という枠組みに基づき、2%の「物価安定の目標」の達成に向けて金融政策を運営しています。この枠組みは、「長短金利操作」、「リスク資産の買入れ」、そして、先行きの政策運営についての対外的な約束である「コミットメント」の3つから構成されます。
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これらに加えて、感染症に伴う経済的影響への対応として、昨年3月以降、 ①企業等の資金繰りを支援する「特別プログラム」、 ②円貨および外貨の潤沢かつ弾力的な供給、 ③ETFとJ-REITの買入れ、の3つの措置を実施してきました(図表 12)。こうした対応は、政府の施策や金融機関の取り組みとも相まって、金融資本市場の動揺を抑え、企業等の資金繰りに対して効果を発揮したと考
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13 えています。もっとも、景気の改善ペースが緩やかで、下振れリスクが大きいと予想されるもとでは、当面、企業等の資金繰りに対しストレスがかかり続けると考えられます。このため、日本銀行は、本年6月の金融政策決定会合で「特別プログラム」の期限を来年3月末まで延長し、企業等の資金繰りを引き続き支援していくことを決めました。今後も、感染症の影響を注視しつつ、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる方針です。図表 12日本銀行の新型コロナ対応策 また6月の会合では、「特別プログラム」の期限延長に加え、気候変動関連分野での民間金融機関の多様な取り組みを支援するための新たな資金供給の導入を決め、 7月の会合において、その骨子素案を公表しました。こうした金融政策としての対応は、 7月に公表した、日本銀行としての気候変動に対する包括的なETF :年間約6兆円ペース →上限年間約12兆円ペースJ-REIT:年額約900億円ペース→上限年間約1,800億円ペース①企業等の資金繰り支援②金融市場の安定確保新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム・CP・社債等の買入れ:残高上限約20兆円(従来は約5兆円)・新型コロナ対応金融支援特別オペ円貨および外貨を潤沢かつ弾力的に供給・国債のさらなる積極的な買入れ・米ドル資金供給オペ拡充③ETF・J-REITの買入れ 14
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取り組み方針2の1つとして位置づけており、気候変動問題に関する国際的な関心の高まりや、政府の「2050年カーボンニュートラル宣言」に沿ったものです。図表 13 では骨子素案の内容をまとめています。新たな資金供給は、金融機関自らが判断する気候変動対応投融資を日本銀行がバックファイナンスする形とし、資金供給を希望する金融機関に対して、気候変動対応に資する取り組みについて一定の情報開示を求めることで規律付けを担保しています。貸付利率はゼロ%、貸付期間は1年間とするものの、実施期限である2030年度まで借り換えを可能としました。今後、金融機関との意見交換を通じて詳細を検討し、年内を目途に資金供給を開始する予定です。図表 13 気候変動対応を支援するための資金供給(骨子素案)
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2 「気候変動に関する日本銀行の取り組み方針について」(2021年7月16日)。同方針では、金融政策、金融システム、調査研究、国際金融等について、気候変動問題への取り組みに関する各種の施策を示しています(詳細は下記URLを参照)。https://www.boj.or.jp/announcements/release_2021/rel210716b.pdf対象先・対象投融資 気候変動対応に資するための取り組みについて、一定の開示を行っている金融機関 その取り組みの一環として実施する、わが国の気候変動対応に資する投融資 類型としては、以下のような投融資を対象①グリーンローン/ボンド②サステナビリティ・リンク・ローン/ボンド(気候変動対応に紐づくもの)③トランジション・ファイナンス貸付条件等 貸付利率:ゼロ% (貸出促進付利制度上は、カテゴリーⅢ<付利金利ゼロ%>の対象) マクロ加算残高への「2倍加算」 貸付期間:1年間。実施期限まで借り換え可能 → 実質的に、長期資金のファイナンス 実施期限:原則として2030年度まで実施対象投融資の判断を金融機関に委ねつつ、一定の開示を求めることで規律付け長期に亘って取り組みを支援 15
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(2)金融政策運営に対する私自身の考え以上ご説明した金融政策のうち、私は、感染症への対応策や気候変動分野の新たな資金供給の導入については賛成しましたが、長短金利操作とコミットメントについては反対を続けました。資金繰り支援策や流動性供給だけではなく、2%の「物価安定の目標」を早期に達成し、日本経済が力強い成長軌道に復することを支援する政策が必要であると考えているためです。感染症の拡大は、公衆衛生上の措置の強化や、家計・企業のマインドの悪化を通じて個人消費や企業の設備投資を縮小させ、さらに需給ギャップを供給超過方向に悪化させることを通じて、物価の低下圧力として作用すると考えられます。そして、物価上昇率が停滞する期間が長期化するほど、適合的な期待形成の度合いが強いわが国では、予想インフレ率が上昇しにくくなります。このように、需給ギャップと予想インフレ率の双方に悪化方向の圧力がかかることで、物価の停滞が助長されることになります。先に述べたように、ワクチン接種の進捗などに伴い、感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで日本経済が回復基調を辿るというメインシナリオのもとでも、見通し期間において、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていないというのが私の考えです。また、変異株の感染拡大などにより、感染症の影響が想定以上に長期化するリスクも十分にあり得ます。
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そうなれば、物価の停滞が長期化するリスクはより強まるでしょう。このような認識を前提とすると、私自身は、金融政策においては、長短金利操作とコミットメントに関して緩和を強化することが必要であると考えています。長短金利操作に関しては、コロナ後を見据えた前向きな設備投資など成長投資を後押しする観点から、積極的に国債を買入れ、長短金利を引き下げることが適当です。金融緩和によって成長投資を後押しすることは、感染症の抑制と必ずし
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もトレードオフの関係にはないと考えています。また、コミットメントについては、財政・金融政策のさらなる連携が必要であり、日本銀行としては、政策金利のフォワードガイダンスを物価目標と関連付け、具体的な条件下で行動することが約束されている強力な内容に修正することが適当と考えています。米国や欧州と比較してわが国の物価上昇率は低位に止まっていますが、産業構造の観点からみた国際商品市況の国内物価に波及する度合いは、日米欧で大きな差がないことが分かっています。そのため、米欧との実際の物価上昇率の違いは、予想インフレ率の上昇や需給ギャップの改善の度合いに差があるためと考えられます。より強力な金融緩和を行うことで予想インフレ率および需給ギャップの両面に働きかけることが、2%の「物価安定の目標」の達成・維持のための必要条件です。4.長崎県経済について最後に、長崎県経済について、日本銀行長崎支店の調査を参考にしつつお話しいたします。長崎県は、古くから海外との交易の窓口として栄え、国際色豊かな文化を育んできました。また、長い海岸線と多くの島を擁する自然景観や2つの世界遺産(「明治日本の産業革命遺産」および「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」)など、豊かな観光資源を背景に観光業が大きく発展してきました。
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現在、その観光業は、感染症の拡大により深刻な影響を受けていますが、長崎県経済は、全体として持ち直しの方向にあります。巣ごもり需要を背景に財消費が底堅く推移しているほか、設備投資も複数の大型案件が寄与して増加しています。生産面も、新たな主力産業と期待される半導体関連が牽引するかたちで持
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ち直しています。今後も、当面は感染症を巡る不確実性はあるものの、ワクチン接種が進捗するもとで、その影響は徐々に和らぎ、経済は持ち直していくと考えられます。長崎県経済は、中長期的には、人口減少、造船を巡る事業環境の変化、カーボンニュートラルに向けた産業界の対応などの課題を抱えていますが、近年では、今後の成長につながる力強い動きがいくつかみられることも特徴です。1つ目は、半導体産業の拡大が続いていることです。世界的な半導体需要の高まりを受けて、県内の関連メーカーでは生産が高水準で推移するほか、大規模な能力増強投資も相次いで実施されています。長崎県経済における半導体産業のプレゼンスは今後もさらに高まることが予想されます。2つ目は、企業誘致や新たな産業の育成に向けた取り組みが積極化していることです。具体的には、行政による企業誘致活動に加えて、県内の2つの大学が情報系学部を新設したこともあって、近年、長崎市を中心にIT関連企業の進出が相次いでいます。また、航空機産業を担う企業の裾野の拡がりや、洋上風力など海洋産業のクラスター形成に向けた取り組みもみられています。3つ目は、長崎県経済に大きな変化をもたらす可能性のある大型プロジェクトが進行していることです。
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たとえば、来秋の西九州新幹線の開通に向けた準備が進んでいるほか、長崎駅周辺では、商業施設や大規模MICE施設、長崎スタジアムシティなどの再開発プロジェクトが進行中です。こうした前向きな動きが、地域の皆様の連携により今後さらに拡大し、長崎県経済が益々成長していくことを願っております。日本銀行としても、長崎支店を中心に、長崎県経済の発展に少しでも貢献できるよう努めてまいります。
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18 ご清聴ありがとうございました。 以上